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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
39/45

――その知らせは嵐のように、いきなりやってきた


「ミオ・サイラス 、シアン・リンデル――

皇帝より命が下った!――直ちにラングスター領へ出発せよ!」


皇帝付きの伝令官が息を切らしながら伝える。

何事かと2人が顔を見合わせた。

ちょうどその瞬間、リドが血相を変えて薬術院に転がりこんできた。


「――ライが、オルグレン将軍が毒矢に倒れたっ!

昨夜、奇襲で放たれた矢がこれだ…!

何の毒か分かるかっ!?」


その言葉にミオの耳が、キーン…と高く鳴った。

目の前のリドの動きが、ゆっくりスローモーションのようになる。

声が、遠い―― 水の中にいるみたいな。

膝に力が入らない…。


「ーオ、ミオ!! ボサっとするな!!」

張り詰めたシアンの声に、ミオの意識が一気に現実に引き戻された。


2人は直ちに布に包まれた矢尻を確認した。

独特な金属臭、矢尻に付着している濃い緑色の粘液…


「なんてこと…マトバガエルだわ!!」

隣のシアンも同じ見解の様だ。

「ら、ライ将軍は…!!今は…!?」

そう言いながら、既にミオとシアンは既に動き出していた。解毒に必要な薬を次々に掴み、鞄に詰め込んでいる。


「分からん…!とにかく気を失う前に、薬師を呼べと!」


ミオとシアンはすぐに支度を整えると、息をつく間もなく、ライのいる領地へ早馬で向かった。


風を裂くように、早馬が力強く駆け抜ける。リドの背中にしがみつきながら、ただ将軍の無事を祈った。


王都を抜け、森を抜け、日が没し、星が瞬く頃、ラングスター侯爵の邸がミオ達の視界に見えて来た。


「もう少しだ!あそこだ!」


リドが、馬上でミオの方を振り返り、ホッとしたように叫ぶ。


だが、ミオは何も言えなかった。

毒に倒れて、1日近く……。

もしかしたら、もう将軍は…。


(駄目、そんな事考えたら――)


どうか、どうか、間に合って――!!


命の終わりの匂いを嗅ぐまいとするように、ミオは歯を食いしばり、前だけを見つめた。

---

***


「将軍……!」


3人は なだれ込むように、ライが滞在している部屋の扉を開けた。窓際の寝台にもたれかかるようにして、ライが力なく座っていた。汗に濡れた額、蒼白な頬、呼吸は浅く、右腕には、刺さったままの毒矢――部屋の中では、侯爵や地元の医師が成す術もなく、オロオロと立ち尽くしていた。


ミオとシアンは、すぐに処置へ取り掛かる。


シアンはライのもとへ駆け寄ると素早く脈をとり、胸に手を当て心拍を確認する。


「――将軍、将軍!!…生きてる!!

よく矢を抜かなかった…!!

脈が弱いが……まだ生きてる!」


シアンが信じられないと言うように何度も叫んだ。


そして、毒で赤黒く腫れ上がった右腕には、見覚えがある髪紐が、何重にも強く巻き付けられていた。


(――私の髪紐で…毒の回りを抑えたの?…私が言ったこと、…覚えてたの?)


ミオの頬に涙がツウッと、こぼれ落ちる。

息が詰まって肩が上がる。


毒矢を抜くな、水で洗うな、決して横になるな。


──そのすべてを、ライは守っていた。

苦しみに顔を歪めながらも、ひとつとして怠らずに。


「こんなに苦しかったのに……ちゃんと……」


手が震え、脚に力がはいらない。

けれど――


「ミオ!」


シアンが応急処置の手を緩めることなく、ミオに一喝

した。


「泣いてる時間なんて無い!早く解毒剤を飲ませろ!!」


「……はい!」


ミオは涙を拭い、震える手を抑え、深く息を吸った。


自分は薬師――

命を救う者として、ここにいる。

矢が刺さってから既に一日近くが経過している。

状況はかなり厳しいが、決して諦めない。


解毒剤はミオが口移しで、少しずつ慎重に飲ませた。嚥下を確認しながら、徐々に紐を緩め、解毒剤が効くスピードと毒が回るスピード、その均衡をギリギリの所で調整した。


腕は…動くようになるだろうか…。

ミオは矢が突き刺さったままの右腕をチラリと見た。

紐で縛り上げて丸一日。

壊死するには十分な時間だ。

そうなれば、剣はもう握れない…。


(今は…今は、命を救う事に集中するのよ!!)


ふたりの薬師が、必死で命の境界線を繋ぎ止めていた。

ただひたすら、この男に生きてほしいという

切なる願いだけが、そこにあった。



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