冬空の花火
どれくらいたっただろうか。
ミオの身体に甘くのしかかる重み、微かに聞こえるライの呼吸、首をくすぐる黒髪にミオは身震いした。
(う、うわあー!どうしよう、こ、これって、どうしたら…!!)
職業柄、人との距離が近いのは慣れている。 なのに、これは違う。全く違う。
起こさないように、視線をそっと ライの方へ向ける。
前髪の奥に、額の傷がチラリと見え ミオは思わず指先をのばした。その傷跡をそっとひとなでする。
「…ん」
くすぐったかったのだろうか、ライがわずかに身動ぎ、その額がミオの首もとに、そっとすり寄った。
(ひえええ!!もう無理!動悸が!!)
これでは心臓がもたない。
慎重に腕を伸ばし、指先に届いたクッションを何とか引き寄せる。
自分とライの間に詰め込むと、ライの身体をそっと、そのクッションへともたれかかせた。
よほど疲れているのだろうか、ライは起きることも無く、無防備に寝ている。
「…お疲れ様でした…ライ将軍」
ミオは、囁くようにそう言うと、静かにその寝顔を見つめていた。。
***
ライはまどろみの中から、意識を引き戻した。
見慣れた執務室の天井がボンヤリと視界に映る。
自分は山の中にいたのでは――いや、違う。帰ってきた。彼女の顔を見る為に。
ハッと覚醒する。傍らにも、部屋のどこにもミオの姿が無い。
(都合の良い夢だったのか?)
不安を抱え
ライは勢いよくソファから起き上がった。
「…あれ?ライ将軍。もう目が覚めました?」
その時、ミオが隣の小部屋から ひょこっと顔を出した。
「今、お茶を入れようとしてて。ここらへんのカップ借りても良いですかー?」
ミオの、ふわりとした落ち着いた声が聞こえると、ライの全身から力が抜けた。
胸の奥から、心底ホッとした。
(良かった…夢じゃない…)
時計の針をチラリと見る。
(もうこんな時間か…)
ライは無言でミオの側に近づいた。
「…後でいい」
「…えっ?」
そう言って、ミオの手首をそっと掴む。不思議そうに自分を見つめるミオを伴って
執務室から繋がるバルコニーへ出た。
ドォーー…ン!!
「わあっ!花火!…凄く綺麗!!」
冬のヴァンデールの空に、大輪の花が咲く。
祈りと集いの始まりの1週間を祝い、花火を上げるのだ。
(なんて綺麗なの…)
ミオは生まれて初めて見る、その美しさに見惚れた。
花火が終わり、空が静けさを戻しても、ミオの視点はまだ空に残ったままだった。
ライはずっと、ミオのその横顔だけを見つめている。
「もしかして…この花火を、見せるために10日で戻るって約束してくれたんですか…!?」
「……」
ライは無言だ。でも、ミオにはそれが肯定の意味だと分かった。
「…ありがとうございます…ライ将軍…」
ミオが、戸惑いと嬉しさをかみしめたような表情で、小さく笑った。ライの胸がまた熱くなる。
「ミオ」
ライはそう言って、ミオの頰にそっと手を添えた。
ゴツゴツとした自分の指先が、少し震えている。
戦場ですら、震えないのに。
ライはゆっくりと、ミオの唇に自分の顔を寄せる。一瞬、視線が交わる。ライはピタリと動きを止めた。
やがて、ミオの瞼が、ゆっくりと綴じられ、2人の唇が、そっと重なった。
気持ちを確かめるような、そっと触れるだけのキス。
それだけで、ライは人生に感じたことのない喜びを噛み締めていた。
初めての、狂おしいような感情に、ライの胸は焼けるように熱くなった――。




