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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
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決意の朝

王宮の外、朝霧が立ち込める身を切るような寒さが、あたりを包む。軍馬の吐く息が白く、空へとたちのぼっていく。


出立の日の朝はいつにも増して、気の重い朝だった。


馬具を整える兵、旗を掲げる副官、


その周囲で、家族や恋人が無事を願って言葉をかけていく。


今までなら、なんとも思わなかった。

見送りなど、自分には無縁のものだと、そう思ってきた。寂しいとも、羨ましいとも感じたことなど、一度もない。



――なのに、今日は。


頭に浮かんでしまう


柔らかく笑うミオの顔が、笑うと三日月のようになるあの瞳が。


(来るはずはない……分かってる…)


このまま行けば、しばらく会えない。

盗賊団の征伐が順調に行けば、2週間、手こずれば、一ヶ月はかかるだろう。いや、最悪それ以上か――


ほんの一目でいい。遠くから見るだけで良かった。

笑わなくていいから、ただ――

ライは短くため息をつくと、軍馬に足をかけた。


――その時


「……っ!オルグレン将軍…!!」


聞きたかった声が、朝靄のなかで響く。



ライがハッと振り向く。

霧がたちこめる中を、ミオが何かを抱えてパタパタと走ってくる。いつものローブ姿。吐く息が白く、顔の前で踊っているかのようだ。


「間に合った…!! あのこれ!裂傷の血止めと、鎮痛剤と、それからこれは…」


ミオは、ハァハァと肩で息を整えながら、袋の中から色々と取り出しては説明している。


ライは黙って、ミオを見下ろしていた。


「……」


何故か、言葉が出てこない。

感情が、追いつかない。


胸が熱く高鳴って、言いようのない想いがライを突き上げる。


そんな自分をミオは不思議そうに見ると、あのはにかむような笑顔を見せた。一瞬瞳が揺れて、迷って…


「あの…行ってらっしゃいませ。ら、ら…ライ将軍」


その瞬間、時間が止まった

心臓を、つかまれたような感覚――


「……」


衝動のまま、ライはミオを力強く抱き寄せた。

ミオが一瞬、息を呑み、身体を固くした。


ライがハッとする。

(――また、やってしまった。怖がらせたか…)


ライが身を離そうとした瞬間

柔らかな唇が、そっと彼の頰に触れた。


「……」

茫然として、目の前の彼女を見る。


「あの、これは。村のまじないでして…その、左頰に口付けて…。無事を祈るといいますか…」

耳まで真っ赤にして、ミオがしどろもどろで答えた。


「触れても、いいか…?」


ミオが小さく頷いたのを確認すると、ライはそっと、ミオを抱きしめた。今度は軽く。怖がらせないように。


そして耳元で、低く囁く。


「……10日で、終わらせる」


それだけを告げて、

ライはミオから離れた。

軍馬に飛び乗ると、低く鋭い声で号令を発した。


「全軍、出立!」


その声が響くと空気がビシリと一変する。


出立を促すラッパの音が響き渡る中、

心のざわめきを押し殺し、ライの視線はただ

前を見据えていた。


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