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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第一章
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毒針と癒しの手

黒い髪に灰色の目をした男は、少しの沈黙のあと、無言で腰から火酒の筒を取り、ミオに投げた。

筒を受け取るやいなや、ミオはすばやく栓を抜き、ドバドバと患部にかける。

その瞬間、太い指が彼女の手首を掴んだ。


「……何をする気だ」

「毒針を抜くんです。マヌガ蜂は刺し終えると体内に毒針を残して死にます。早く摘出しないと…」


2人の視線がぶつかる。ミオはまっすぐ、オオカミのような鋭い眼をした男を見つめた。


「……分かった」


ゴツゴツとした大きな手が、ミオの手首から離れる。

ミオは短く息を吐き、小さく自分に言い聞かせた。

「針が折れたらおしまいよ…集中して…」


ミオはピンセットを慎重に騎士の首元にあてる。縞模様の特徴ある毒針が、ヌルリとつまみ出された。


「よし…取れた。…何て大きな針なの…」

一瞬、ホッとした空気が、辺りを包む。


次の瞬間――


「ゼイ…ッ、ゼイ……ひゅー……っ!」

苦しげな呼吸。喉元を押さえた騎士が顔をゆがめる。


ミオは動揺すること無く すぐさまポーチから乾燥した葉を取り出した。平らな石の上で砕き、火打ち石を鳴らす。

火花が葉の上で踊り、

ふわりと立ち上る一筋の煙、漂う独特の香り。


「待て、何の煙だ……」

鼻と口を押さえながら、男が尋ねた。


「彼は今 毒の影響で気道が腫れて息が出来ていないんです!これはオダの葉といって吸引することで――って…あのっ!後にしてもらっていいですか!?」


虚を突かれたような顔をして、男が言葉を飲み込む。

ミオは騎士の身体を少し起こしてやり、柔らかく声をかけた。


「苦しいですよね。少しでもいいから、この煙を吸ってください」

数分後、青白かった騎士の顔にわずかに血色が戻り、呼吸も少しずつ整ってきた。

まわりの騎士たちにも安堵の表情が浮かぶ。


ミオは今摘んできたばかりのミズツバキの葉を揉み、患部に貼りつけて包帯を巻いた。

「今、毒がまわって身体中痛いでしょう…。鎮痛作用がある薬草を貼りましたから…。」

「あ、あり…が……ハァッ ハァッ…。」

息も絶えだえに、礼を言う騎士。

ミオは、そっと微笑んだ。


―男は、その一部始終を黙って見ていた。

初めて見る薬草 的確な処置 そしてこの度胸−−−

年は…24か、25といったところか。

ミオの横顔に、もう一度視線を向けた その時――


「応急処置は以上です。でもまだ油断出来ません。早く解毒剤を飲ませないと…。山を降りると私の診療所があります。そこまで この方を運んでいただけませんか?」

「……分かった。担架を――いや、いい。俺が担いでいく。早い方がいいだろう」


男は後方に目を向け、低い声で呟く

「…リド。あとは頼んだ」

「はいよ!」リドと呼ばれた男が頷く。


男――ライは、無駄のない動きで、軽々と騎士を背負い上げた。

「…どっちだ」

「…ご案内します!」

ミオは勢い良く立ち上がり、籠を背負いなおすと

村への道を歩き出した。


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