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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
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その名前を呼ぶ時


二人を乗せた馬が、冷たい風を切り裂いて、王宮へと走り出す。

ライは馬上のミオに目をやった。


項垂れ、小さく震える肩。泥まみれのローブ。


「寒いか?」


ライは耳元で低く囁いた。

ミオは何も言わず、ただ首を横に振る。


不安が怒りに変わり、ただ自分の感情をぶち撒けた。

ミオの蒼白く緊張した顔、怯える目――

ライの胸には後悔しかない。


(また、あんな顔をさせた……)


ライは唇を噛んだ。せめて自分の体温を分けるように、ミオの体へ回した手を、自分の方へ抱き寄せる。

馬上で彼女の背中が、自分の胸にピタリとくっついた。


***


二人を乗せた軍馬が、王宮の門をくぐり抜けた頃、

空は既に群青色へと移り変わっていた――


ミオはか細い声で何度も「…大丈夫です」と繰り返し、馬上から降ろそうとするライの手をかたくなに拒んだ。


「……はぁっ」

ライが腰に手を当て、下を向き、深く息を吐いた瞬間、ミオの体がビクリと震え、肩がすぼまる。


「す、すみません…すみません。でも、本当に、大丈夫ですから――」


ミオの華奢な手が、まるですがるように馬の手綱を握りしめている。


ライは、しばらく黙ってその緊張した指先を見つめ、自分の大きな掌で、それをそっと包みこんだ。



「ミオ」



――低く、静かな、自分の名を呼ぶ声――


ミオはハッと息を呑み、

おそるおそる顔を上げた。


「ミオ。さっきは…怒鳴ってすまなかった」

ミオはすぐに首を横に振った。目に涙がじんわりと溜まる。


「違います。私が…私が、皆さんに迷惑を…」


「迷惑など誰にもかけてない。心配しただけだ――分かるな?」


「……はい」


ライのはっきりとした、静かな語りに、ミオは溢れそうになる涙を、必死に唇をかみしめてこらえている。


「医術院に行く。いいな?」


ミオは黙って頷いた。

馬上からライの首元へ、遠慮がちに手を伸ばす。


彼女がそっと身体を自分に預けた瞬間、ライの喉がわずかに鳴った。

――思っていたよりも、ずっと軽い。

呼吸も忘れるほど、慎重に腕へと抱き寄せた。

ライはそのままミオの体を横抱きにすると、まるで壊れものを扱うように、王宮内の医術院へとまっすぐに足を運んだ。

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