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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
24/45

引いた手

***


「おっ。ここに、マゼンタの葉があるよ!ミオ」


軍事演習の行程も無事に終わり、あとは山を下るだけとなった。山中の少し開けた場所での休憩中、ミオとシアンは薬草が沢山茂っている一角を見つけた。

思わず2人は目を輝かせる。


「本当ですね!休憩時間が終わるまでに、出来るだけ沢山採取しましょ!」

ミオは、早く早く、と声を弾ませ、茂みの中へ シアンを誘った。


「ミオ、元気だなぁ。僕もう足が棒だよ…。早く帰りたい。」

シアンは口を尖らせながら、プチプチと薬草を摘んでいる。

「ふふふ!だって採りたかった薬草が大収穫で嬉しいんですもん!」

ミオは満足気にニッコリほほ笑んだ。


***


その時、2人が草を摘む背後から、ネチネチと絡みつくような声が近付いてきた。。


「薬師、お前たち草摘みばっかしてて、本当に楽しそうで良いよなあ。」


ミオとシアンがゆっくり振り返ると、

声の持ち主――アダム・バイロンは、腕組みをしながら木にもたれてニヤニヤとこちらを見ていた。


シアンはゲンナリした顔でミオに視線を向ける。

(無視しましょう…)

パクパクとミオは口だけ動かす。


だが、アダムの執着は止まらない。

ニヤニヤしながら、崖際の草むらの一角を指さした。

「ほら、あそこに見えるの、さっきお前らが探してたダロスの葉だろ?

感謝しろよ。お前達の為に 俺も探してやったんだからさぁ…。」


ミオはその指先の方向を、ゆっくりと辿った。

崖下からせり出すように伸びた木の枝に、確かにダロスの葉が揺れている。

ただ、うっそうと茂る葉に隠れて、足場がほとんど見えない。


(どう見ても、近づいたら危ないわ…)


「早く取って来いよ。山育ちなんだから出来るだろ。」


その声に、シアンがピクリと肩を震わせ、ムスッとした様子で、一歩 ミオの前に出る。


「……おい、なんだよ今の言い方、嫌な奴だな」

「何だと!? 薬屋がバイロン家に楯突くのか!?」


アダムは鼻を鳴らし、荒い息を吐きながら、シアンとの距離を詰めた。


ミオは慌ててその間に滑り込む。


「…やめてくださいっ!…分かりました、手が届くか見てきます。」

そう言って、崖際に向かって小走りで進む。


アダムの口元に、ニヤリと笑みが浮かんだ。

(まんまと挑発にのりやがった…何、少し 背中を押して脅すだけだ…。)


──嫌な予感がした。


ミオは足元を確認しながら崖へと近づく。


(三日前の雨で、地面がゆるんでる…慎重に行かなきゃ…)


「おい、まだか?早くしろよ。」

アダムが、ミオの背後にぴったりとつきまとい、どこか焦れた様子で呟いた。


(そうだ…もっと崖際へ…)

アダムはミオの背中に視点を定める――

ゆっくりと手を上げ、

アダムが一歩、ズムッと足を強く踏みしめた。


その時――


「…アダム先輩!待って、止まって…!!」


ミオが何かに気が付き、顔を上げて叫んだ瞬間

足元の土が崩れ、アダムの体が前方にぐらりと傾ぐのが見えた。


「先輩っ!」


ミオは迷わず手を伸ばし、アダムの腕をがっちりと掴み、引き戻す。


アダムの体は辛うじて、地面に戻ったが──


次の瞬間。



ミオの体がふわりと宙に浮いた。

「…あ、」

引き戻した反動で、ミオの小さな体は崖の斜面から、静かに下へと吸い込まれていった――。


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