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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
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白い息と不穏な風

冬枯れの山に、鳥のさえずりと白い息が舞う。

枯れ葉を踏みしめる規律正しい人々の足音が、静寂を割いた。


「ぼ、僕……もう無理だ……」

シアンがゼーゼーと肩で息をしながら、つぶやいた。


「シアン先輩、もうすぐ休憩ですから。あとちょっとだけ、頑張ってください!」

ミオは後ろからシアンの背中をグイグイと押してやる。


今日は、年に一度の合同軍事演習の日。

軍のさまざまな部隊に加えて、薬術院と医術院のメンバーが後方支援として同行する、特別な演習だった。普段、部屋に籠もりっきりの薬師達には

「地獄の行進」

と呼ばれ 毎年恐れられている。

けれどミオ違った、この日をずっと心待ちにしていた。


(久しぶりの山!やっぱり気持ちがいいわ!!)

軍の同行任務とはいえ、自然の中での採取活動に、胸が高鳴る。


「あ……あれは月下草!? こんなところに……!」


目を輝かせて駆け寄るミオ。そんな彼女の様子を、冷ややかな視線が横から刺していた。


医術院の若手医師、アダム・バイロン。


先日の研究発表会で、ミオの発表が高く評価されたことが、どうにも気に入らないらしい。

ミオに聞こえるように、わざとらしくブツブツとつぶやいてくる。


「……薬術院なんて、所詮はおばあちゃんの民間療法だろう」

「あんなのを評価するなんて、僕には理解できないな……」

その言葉にシアンがピクリと反応する。


「何だよ、アイツ…」


「まあまあ、シアン先輩、私は大丈夫ですから」

丸眼鏡をくいっと上げて、プンプン怒るシアンを横目に、ミオは苦笑いをうかべた。


(やっかみなんて、気にしていたら王宮の薬師なんてやってられないわ…。せっかく山に来たんだもの。トウキと、マーゼルの葉を見つけたら、絶対に採って帰らなきゃ!)


ミオは背中のリュックを背負い直し、気合いを入れた。

 

***


その頃、軍馬にまたがり先頭を進むライとリド。


「後ろの隊列、遅いな…大丈夫かね薬師さん達は…」

リドがちらりと後方を振り返った。

「今回、医術院も来てるんだろ?あのアダムとかいう男…」

「……」


ライは何も言わず、ただ前を見ている。


リドの脳裏に先月の薬術報告会でのアダムの態度が浮かんだ。

アダム・バイロン ―― 代々王家の医師を務める家柄の出だが、何かにつけ家柄を振りかざす態度は、実は評判は良くない。

アダムは、研究成果の内容だけでなく、ミオの出自や薬師という立場まで、馬鹿にするような言葉を投げていた。


(あの野郎、余計な事しないでくれよ…)


普段なら、あのような小物、相手にする価値もない――

だが、この時だけは、人の機微に鋭いリドの胸に、じわじわと嫌な予感が広がった。


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