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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
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繋がれた指先

「はああっ…天国のような場所でした。」

「次の休みが合う日、また来ようよ。」


目を潤ませ、感動で胸いっぱいというような風情で、ミオとシアンがリブラ堂を後にした。

クレアは後ろで「アレが天国なんて、冗談じゃないわ…」とぶつぶつ言っている。


「待たせちゃったね。ごめんね、クレア」

「じゃあ次はお前の行きたいとこでいいよ」

「あったりまえでしょう! ケーキ屋、リボン屋、香水屋!!あと実家にも寄るわよ。仕立て屋の息子がそのセンス! 問題外よ!! さあ、ついてきなさい薬師たち!!」

クレアは意気揚々と、2人の先を歩く。


「はぁ…」とげんなり顔のシアン。ミオは、戦利品の本が沢山詰まったカバンを肩にかけ直し、嬉しそうな顔で2人について行く。


三人が大通りへ足を踏み入れようとした時、ミオはどこからか視線を感じた。

人が行き交うその先に、濃紺の騎士服を着た一団が、こちらを見ている。


(あ、オルグレン将軍だわ…)


視線は確かに合った。静かにミオは会釈する。

ライは数秒目を細めてその場に佇むと、ふいと視線を外し、騎士団を引き連れて去って行った。


「ーうううっ、怖かったなあ。なんでこっち見てたの!?」

シアンが丸眼鏡をクイッと上げながら問いかける。


「そのローブでしょ。アンタ不審人物だと思われたんじゃない」呆れ顔で言うクレア。

「失敬な!」


ギャーギャーとミオの横で喧嘩を始める二人。


(この前あげた頭痛薬、飲んでくれたかな…。)


ミオは、ライの後ろ姿をそっと見送った。


***


休日の王都の大通りは活気に満ちている。花売りに音楽隊、屋台からは良い匂いが立ち込め、ミオ達の鼻をくすぐる。

村とは違う人の賑わいに、ミオは圧倒されっぱなしだ。

前を歩くクレアとシアンの背中を見失わないように、何とか頑張って歩く。


(うわあ…すごい人…)


大道芸人がパアッと手から花びらを出し、空中に巻いた。

若い女の子たちがキャアキャアと歓声を上げて寄ってくる。

ミオは、一瞬周りが見えなくなり、足がもつれた。


そのとき、誰かの大きな手が、自分の指先をそっと絡め取った――

その手はミオを人がいない方へ、ゆっくりと導く。



視界いっぱいに入る大きな背中が、ゆっくり振り返った。


(オルグレン将軍…)


「……」


道の端に着くとライは黙ったまま、自分を見下ろしている。

なぜだか、手は繋がれたままだ。


「あっオルグレン将軍。ありがとうございました。

すごい人で…。」


「……」


(あ、手を離さなきゃ…)


「あの…もう大丈夫です。いつも迷惑かけてすみません…」


ライの視線が何かに反応するように、ふと上がった。

アンバーと灰色の視線がぶつかりあう。


「…迷惑だと思ったことは… 一度もない」


静かに、はっきりと。ライは告げた。

繋がれた指先に、僅かに力がこもる。

--

ミオはなぜだか分からないけど、胸に温かいものがこみ上げて、目頭が熱くなった

(何でだろう…嬉しくて…)


「…良かった…」


笑いながらライの顔を見上げてそう言うのが、

精一杯だった。

ライは 灰色の目を少しだけ見開く


その瞬間──


「あっ! ミオ! いたっ!! おーい!!ミオ!!」


ミオを探すシアンの声が響く。

ピクッとライの肩が動くのと、つないでいた指先が離れるのは同時だった。


「…気をつけろ」


シアン達が、ミオのすぐそばまで来たのを確認すると、ライはマントを翻して人混みに消えていった。


「はあ、ごめんねミオ! 着いてきてると思っちゃって、焦ったあ。」


「うん…」


「なんでオルグレン将軍といたの?

…あれ、ミオ大丈夫 ?顔、赤いよ?

1回どこかで休もうか?」


どこか上の空なミオの顔をのぞき込みながら、クレアが心配そうに言う。

「うん…え、あ、ううん!大丈夫!」

ミオは慌てて笑顔で答えた。


一方のシアンは、なぜか腑に落ちない顔をしていた。


「……なんで僕だけ睨まれたの?」



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