繋がれた指先
「はああっ…天国のような場所でした。」
「次の休みが合う日、また来ようよ。」
目を潤ませ、感動で胸いっぱいというような風情で、ミオとシアンがリブラ堂を後にした。
クレアは後ろで「アレが天国なんて、冗談じゃないわ…」とぶつぶつ言っている。
「待たせちゃったね。ごめんね、クレア」
「じゃあ次はお前の行きたいとこでいいよ」
「あったりまえでしょう! ケーキ屋、リボン屋、香水屋!!あと実家にも寄るわよ。仕立て屋の息子がそのセンス! 問題外よ!! さあ、ついてきなさい薬師たち!!」
クレアは意気揚々と、2人の先を歩く。
「はぁ…」とげんなり顔のシアン。ミオは、戦利品の本が沢山詰まったカバンを肩にかけ直し、嬉しそうな顔で2人について行く。
三人が大通りへ足を踏み入れようとした時、ミオはどこからか視線を感じた。
人が行き交うその先に、濃紺の騎士服を着た一団が、こちらを見ている。
(あ、オルグレン将軍だわ…)
視線は確かに合った。静かにミオは会釈する。
ライは数秒目を細めてその場に佇むと、ふいと視線を外し、騎士団を引き連れて去って行った。
「ーうううっ、怖かったなあ。なんでこっち見てたの!?」
シアンが丸眼鏡をクイッと上げながら問いかける。
「そのローブでしょ。アンタ不審人物だと思われたんじゃない」呆れ顔で言うクレア。
「失敬な!」
ギャーギャーとミオの横で喧嘩を始める二人。
(この前あげた頭痛薬、飲んでくれたかな…。)
ミオは、ライの後ろ姿をそっと見送った。
***
休日の王都の大通りは活気に満ちている。花売りに音楽隊、屋台からは良い匂いが立ち込め、ミオ達の鼻をくすぐる。
村とは違う人の賑わいに、ミオは圧倒されっぱなしだ。
前を歩くクレアとシアンの背中を見失わないように、何とか頑張って歩く。
(うわあ…すごい人…)
大道芸人がパアッと手から花びらを出し、空中に巻いた。
若い女の子たちがキャアキャアと歓声を上げて寄ってくる。
ミオは、一瞬周りが見えなくなり、足がもつれた。
そのとき、誰かの大きな手が、自分の指先をそっと絡め取った――
その手はミオを人がいない方へ、ゆっくりと導く。
視界いっぱいに入る大きな背中が、ゆっくり振り返った。
(オルグレン将軍…)
「……」
道の端に着くとライは黙ったまま、自分を見下ろしている。
なぜだか、手は繋がれたままだ。
「あっオルグレン将軍。ありがとうございました。
すごい人で…。」
「……」
(あ、手を離さなきゃ…)
「あの…もう大丈夫です。いつも迷惑かけてすみません…」
ライの視線が何かに反応するように、ふと上がった。
アンバーと灰色の視線がぶつかりあう。
「…迷惑だと思ったことは… 一度もない」
静かに、はっきりと。ライは告げた。
繋がれた指先に、僅かに力がこもる。
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ミオはなぜだか分からないけど、胸に温かいものがこみ上げて、目頭が熱くなった
(何でだろう…嬉しくて…)
「…良かった…」
笑いながらライの顔を見上げてそう言うのが、
精一杯だった。
ライは 灰色の目を少しだけ見開く
その瞬間──
「あっ! ミオ! いたっ!! おーい!!ミオ!!」
ミオを探すシアンの声が響く。
ピクッとライの肩が動くのと、つないでいた指先が離れるのは同時だった。
「…気をつけろ」
シアン達が、ミオのすぐそばまで来たのを確認すると、ライはマントを翻して人混みに消えていった。
「はあ、ごめんねミオ! 着いてきてると思っちゃって、焦ったあ。」
「うん…」
「なんでオルグレン将軍といたの?
…あれ、ミオ大丈夫 ?顔、赤いよ?
1回どこかで休もうか?」
どこか上の空なミオの顔をのぞき込みながら、クレアが心配そうに言う。
「うん…え、あ、ううん!大丈夫!」
ミオは慌てて笑顔で答えた。
一方のシアンは、なぜか腑に落ちない顔をしていた。
「……なんで僕だけ睨まれたの?」




