リブラ堂と巡回と
「ライいるかー?来週の軍法会議の件だけど──」
休日だろうが、騎士団には休みは無い。
リドが、ノックも無しに執務室のドアを開ける。
だが、どこを見てもライの姿はなく、代わりに文官の一人が書類を必死に整理している。
「あ…リド様。将軍は今、城下の巡回に出られています」
「……巡回? あいつがぁ……?」
まさかの返答に、リドは目を丸くした
「何だよ、あの巡回用の騎士服、目立つだの重いだのって アイツすっげえ嫌がるじゃんか。」
「あ、はあ…いつもはそうですよね…」
街での巡回服は 騎士そのものを目立たせ抑止力に使う為、嫌でも目立つ。
山で着る実用的な軍服より ずっと華麗で豪華だ。
濃紺を基調に白と金の差し色が入り、肩口からは輝くような金の編糸。マントは流れるように身体を覆うが、実際は重く、何より人の目を集めるため ライはその騎士服が大嫌いだったはずだ。
「珍しいことも あるもんだなあ…」
リドは頭をかきながら、ニヤリと笑い、執務室を後にした。
***
扉を開けた瞬間、ミオの瞳がきらきらと輝いた。
「うわっ……これ、ぜんぶ薬術書……!」
天井まで届く本棚に、ぎっしりと詰め込まれた重厚な装丁の薬術書。息を吸い込むと、落ち葉にも似た古い紙の香り。ここは薬術書専門店 リブラ堂だ。
「ひぇあっ!!シアン先輩っ、あれ、“レーゲナム式”の初版ですよね!?」
「おっ、こっちは“ラヴェンナ薬術方”の解説版!やっと入荷したのかっ!」
「はああっ!シアン先輩これ見て下さい!ずっと読みたかったグラードの外傷治療録の写本がここに!!どこから読もう……どこから…!!」
二人は早口で、わぁわぁとまくし立て、奇声まじりの声を上げながら 棚から棚へ駆け回っている。
「やっぱり私、薬師になってよかったっ……!」
そんな二人を、本屋の隅の小さな椅子に座り、薄く目を開け眺めている一人の人物──
クレアが、ため息混じりに言った。
「……良かったね…」
その呟きは、既に二人の耳には全く入っていなかった。
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