休日の朝
「……薬師って……ほんと……どうしてこう……」
休日の朝
ミオと同室のクレアは、頭を抱えていた。
その視線の先、ミオは鏡の前で薬師服を着て、ローブをまとい、いつもの様にポニーテールを結んでいる。
「ミオ、まさかとは思うけど…それで街へ……?」
「はい!薬術院の先輩と、城下町にある薬術書の専門店に行く予定で!
リブラ堂って言うんですけど――」
「駄目だわ…目眩が」
「えっ……駄目ですか?」
クレアは鏡の前までズカズカと歩いてくると、
ミオの肩をつかんで振り向かせた。
「ミオ!ここは王都よ!せっかくの休日なんだから、ちゃんとお洒落して行くの!」
ミオは目をぱちくりさせた。
(動きやすいから、いいと思ったんだけど…そんなに変かな)
鏡の中のローブ姿の自分を何回も見る。
クレアはすぐに引き出しから服の束を引っ張り出し、ミオの身体に次々と充てがう。
「ほらっ!これ!ミオの瞳の色に良く合ってると思わない?私の新作がようやく日の目を見るわね!」
「わあ、素敵な服…。クレアってこんな素敵なお洋服作れるの?凄いわ…」
ミオが小さく呟きながら
秋の森を溶かしたような色のワンピースをそっと撫でた。
布は薄く、サラサラとミオの指がすべる。
そこに──
「おーい、ミオー!」トントントントン
部屋のドアを開けると、ひょこっと顔を出したのは、
薬術院の先輩・シアンだった。
「あっおはようございます!シアン先輩。」
「準備できたー?リブラ堂早く行こうよ。まあ、あそこはいつ行っても空いてるけどさあ。」
シアンの姿を見てクレアは再び気絶しそうになる──腰に薬袋、おなじみのローブ姿、さらに怪しげなボロボロの資料を脇に抱え、
ミオとまったく同じ
“薬師です。これから出勤します。”
スタイル
「……ここにもいたわ……。ねえ、ファッションセンスが良くなる薬草とかないわけ!?」
クレアの声が低くなる。
ミオはただ苦笑いだ。
クレアは呆れながらシアンに向き直る。
「アンタ、今日街に出るなら、ついでに実家に寄ってまともな服、見繕ってもらいなさいよ」
「ん?クレア …シアンの実家を知ってるの?」
「……は?何言ってんの。あたしたち、双子でしょ」
「えっ?」
シアンはため息をつきながら、ボサボサの前髪を無造作にかきあげた。
ミオの目の前に現れたのは──
クレアと瓜ふたつの、意外と整った顔。
「う、うそ……ほんとだ……!!」
(クレア・リンデル …シアン・リンデル ほんとだ!)
クレアは何回も自分達の顔を見比べるミオを見て
ため息をついた。薬草オタク2人が、休日の王都へ…
嫌な予感しかない。
「なーんか、あんた達二人で街に出すの不安になって来た…。私も一緒に行くわ。はい!ミオはさっさと着替えて来て!シアンは…もういいや。面倒くさい」
「なんかひどくない?」
***
「じゃあしゅっぱーつ!」
のんびりとしたシアンの号令で、3人は 街と繋がる王宮の門へと、歩き始めた。
あれからクレアに髪を整えられ、化粧を薄くほどこされ、何とも面映ゆい気持ちで ミオは歩く。
「ミオ、今日の髪型!その秋色のワンピース!いいとこのお嬢さん!って感じよ。いいわいいわ〜!私のセンス さすがだわ!」
クレアがウンウンと噛み締めながら横を歩く
「クレア、僕は?」
「あんたはちょっと黙ってて」
三人の笑い声が朝日に照らされた石畳に響いていた。
その光景を──
少し離れた回廊の影から、ひとりの男が静かに見つめていた。
ライ・オルグレン。
「将軍、本日の街の巡回ですが、今朝ひとり欠員が出まして……」
部下の報告に、ライは目を細める。
視線の先では、ミオの栗色の髪の毛がキラキラと光り、優しく風に揺れている。
「……俺が行く」
視線をミオに残したまま その一言だけを部下に告げ、ライは踵を返した。




