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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
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狼と再び

「はーい、右手に見えますのはグレートホール。 式典、舞踏会、何でもやるよぉ」


「次は正面 奥の塔にご注目を〜。あちらは通称“秘密の塔” スパイの連絡基地と呼ばれておりますぅ。」


(舞踏会にスパイに…子どもの頃読んだ物語の世界のようだわ)

目を輝かせるミオ。

「スパイって本当にいるんですね!あの塔で何してらっしゃるんですか?」

「知らん」


シアン・リンデル先輩の不思議な“王宮ツアー”

どうやら、昼食時に分けてあげたサンドイッチのお礼らしい。

昼休みの残り時間で、ツアーガイドを申し出てくれたのだ。


(ちょっと変わってるけど……いい人だな)


ミオは、ボサボサ頭の風変わりな先輩について行きながら、王宮の華麗な世界を目に焼きつけていた。


「ほら、剣技場が見えて来た。まあ、こっちは僕らに関係無いけど…」

そう言って 通り過ぎようとした瞬間

ミオの耳に、どこからか

カンカン!と金属を強く弾く音と、熱気に満ちた掛け声が聞こえて来た。


隣を歩いていたシアンがピタリと立ち止まる。

「ん? あっ、そうだ! 今日、剣術大会の日じゃないか。せっかくだから見ていこうよ。」

クイッと眼鏡を押しあげて、ズンズン進んでしまうシアン。

慌ててミオも、その背中についていった。


***

−−広大な練兵場。

砂煙と金属の打ち合う音、そして観客席を揺らすほどの大歓声。


その中心に、ライ・オルグレン将軍の姿があった。


相手の呼吸、間合い、全てを見極める。

そして空気を断ち切るように−−ライは鋭く剣を振るう。


その剣の鋭さに耐え切れず、対戦相手が一瞬バランスを崩した。

(今だ−−)


ライの剣が最後の一撃を振り抜いたその瞬間――


ふと 視界の端に映ったのは、やわらかな栗色の髪と忘れられなかった あの瞳。


(まさか…いや、でもあれは…)


まるで幻のようにこちらを見て そしてくるりと背を向けていく。


そのライの一瞬の動揺を突くように、対戦相手の剣先が目の前に迫る。

咄嗟に身を捻った。

「くっ──!」


肩にジッと焼けつくような痛みが走る


(クソッ 何やってる 集中しろ!!)


それでもライは、 あの幻のような面影から 意識を離す事が出来なかった−−


***


「それでは、また明日よろしくお願いいたします!」


なんとか初出勤を終えたミオの足は、自然と昼に訪れた薬草園の方へ向かう。


(少しだけ……薬草園を見て帰ろう…)


夕暮れの薬草園は昼とは違う穏やかな表情をしている。しっとりとした風の匂いに薬草の香り…ミオは大きく息を吸った。

(素敵ね、やっぱり落ち着くわ。…あっ、あの背の高い葉は何かしら?気になるわ… )


ミオは自分の身長より高い茂みの一角へ足を伸ばした。


−−その時


ガシッ。


不意に、太く冷たい手がミオの腕を掴む。


「ひぇっ……!」


そのまま茂みの中へと引き込まれ、目の前に現れたのは――


狼のように鋭い、あの灰色の瞳。


ライ・オルグレン


その目はどこか険しく、感情を押し殺すようにミオを見つめている。


「……あっ!……ライ…オルグレン将軍!!お久しぶりでございます……」


ぎこちない笑みを浮かべながら、ミオがかろうじてそう言った、その直後。


「……何故来た」


ライの声は低く、張りつめていた。


ミオは一瞬、言葉を失ったように口を開いたまま、真っ直ぐにライを見る。


「……よばれたので……」


どこか上の空のような声で、ミオはそう答えた。


二人の視線がぶつかり、時が止まったかのような瞬間

ミオはそれ以上何も言わず一礼をすると、ライに背を向け 薬草の影へすっと消えて言った−−


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