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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
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スフィアの花と丸眼鏡

「よしっ……!」


王宮職員の宿舎の一室、

ポニーテールに髪を結い上げ、ミオは鏡の中の自分と向き合った。

アイボリーのケープには、王宮薬師団の紋章が刺繍されている。


今日は、王宮薬術院の初出勤日−−

ミオは自身を落ち着かせるように両手を胸に当て 、大きく息を吸い込んだ。


(はあぁ、ついにこの日が来たわ…!とにかく挨拶は笑顔で!出来ることは全力でやりましょ!)


そう鏡の中の自分に、何回も言い聞かせた。


***


――そう、決意したのもつかの間。

ミオは今、膝の震えが止まらない。


ここは王宮薬術院−−大会議室

全身に突き刺さる、値踏みするような数十の視線。


「ミオ・サイラスと申します。どうぞよろしくお願いします!」


精一杯の声を張り上げてお辞儀をする。

揺れるポニーテールから気合いと緊張が滲み出る−−


「…あの娘か? 例の蜂の薬師……」

「ずいぶん若いじゃないか。大丈夫なのかね」

「陛下から直々の招聘だとか……」


歓迎ムードとまではいかずとも、ひとまず“お手並み拝見”といった空気。

ミオはほんの少しだけ肩の力を抜いた。

(ここにいる方達も皆、使命は一緒なんですもの。いずれ分かり合えるわ…)


* * *


「ふうぅぅっ……!!」


昼の休憩、ミオは昼食のサンドイッチを手に、ひとり王宮薬術院の中にある薬草園にやって来ていた。

広大なスペースに色とりどりの花や薬草が隙間なく植えられている。


ミオは大好きなスフィアの木を見つけると、そろりと木の根元に腰をおろした。見上げると、薄紫の美しい花がミオの頭上で、風に揺れている。


(ふうぅぅーっ……緊張したああ……!)


なんせ、これまでの人生で村から出たことなどなかったのだ。

初めて見る華麗な建築、王宮内を闊歩する貴族たち、そして、自分の診療所とは桁違いに大きな薬術院。


「何もかもが村と大違いね……」


午前中は挨拶回りだけだったのに、人生で初めて感じるような疲労感。


(まずは先輩方の顔と名前をしっかり覚えて、それから……)


ミオは目を閉じて、先程挨拶した人達の顔を思い出す――そのとき。


「あれぇ……先客がいたあ……」


ミオが目を開けると、鼻先すぐに金髪のボサボサ頭と丸メガネの青年がいた。

訝しげにこちらを覗き込む彼の腕には、読み込みすぎてボロボロになった薬術書が何冊も抱えられている。


「ここさあ、僕の場所だよ…。使いたいなら100万マルクね…。」


「えぇっ! ご、ごめんなさい! ――今、お財布持って来てなくて!」

「……冗談だよ……」


慌てて立ち上がろうとするミオの腕を、シアンは無造作に掴んでその場に座らせた。


「君は……ああ、“蜂の薬師”さん?」


「あはは……ええ、そう呼ばれているみたいです。

ミオ・サイラスと申します。」


「僕はシアン・リンデル。よろしくねえ」


どこか掴みどころのない笑みを浮かべながら、彼は薬草園の奥をボーッと眺める。


「……あの、素晴らしい薬草園ですね。効能ごとに分かれていて……こんなに種類があるなんて」


「1589種類あるよ。

僕、ここの“住人”だからね…。何でも分かる…。」


「ええっ!?ここに住んでるんですか!?ベッドはどこに!?」


「……君、天然って言われない……?」


(……面白い子が入ってきたもんだな…)


薬術院きっての変人 シアン・リンデルは、

ベッドを探してキョロキョロするミオを見て、喉の奥でクツクツと笑った。

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