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沈黙の将軍と返り花  作者: 青嵐
第二章
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突風

−−それは突然だった。


患者が途絶えた昼下がり、診療所の入口に現れた一人の使者−−


「ミオ・サイラス殿。

王宮薬師団より、招聘の命が出ております


「しょうしゅう……? 私が、ですか……?」

薬草を煮出していた手を止め、ミオは目を丸くする。


(なぜ私に……? もしかして、あの時の…蜂の件……?)


「サイラス殿。

貴殿の薬草への深い理解と経験を、王宮にて是非活かしていただきたい。

陛下より直々のご下命です。これは大変な名誉!」


使者は 「また日を改めて返事を聞きに来る」とだけ告げ 診療所を去っていった。


ミオは診療所の扉に持たれかけながら しばらくの間ぼんやり立ち尽くす


* * *


「いくんじゃ、ミオ!」


背後から薬壺をドンと置く音に肩を跳ねさせると、そこにはカミラばあちゃんが立っていた。


ミオは動揺を隠すように笑いながら、作業台まで戻る。

「何言ってるの、おばあちゃん。……診療所があるもの……村のみんなはどうするの?」


「だーいじょうぶじゃ。まだまだワシは現役じゃぞ!」

カミラは腰に手を当て ミオの側までツカツカ歩くとミオの目を真っすぐ見て言った。


「ミオ…アンタが両親の遺したこの診療所を大切にしてるのは よーく分かっとる。

だがな、世界はここだけじゃない。王都へ行って、新しい技術を学び、沢山の患者や人に会ってこい!

その経験すべてがお前の人生の財産になる!!

ミオならやれる。ワシの自慢の弟子じゃ!」


「おばあちゃん……」

ミオの目に熱いものが込み上げてくる。

「おばあちゃん、わたし−−」


「さあさ!働く働く!また忙しくなるよ!」


カミラはごまかすように鼻をすすりながら 診療所奥へと消えて行った。


* * *


その晩ミオは眠れず、ローソクを片手に診療所の中を見回していた。

優しい灯りに浮かび上がる 薬草達。

見慣れた薬壺に、見なくても開けられる薬棚


ここを離れる?本当に?


(私に……できるかしら)


王宮。薬師団。陛下の命。

見知らぬ世界、村とは違う世界−−

期待と不安、ミオの胸の奥がざわついていた。


ほんの少しだけ、あの不思議な灰色の目を思い出す。

だがすぐに胸の奥へそっとしまい込んだ。


「……不安だわ。…ううん、薬師として出来る事がもっとあるのなら…」


ローソクの明かりに決意を秘めた横顔が浮かぶ。


* * *


それからほどなくした 快晴の空の下−−


「行ってきます!!」


大きな荷を背負い、診療所を背に立つミオの姿があった。


「ファイトじゃーっ!!」


カミラばあちゃんが笑顔で薬草を持った手を突き上げた。ミオは振り返り、精一杯の笑顔で元気良く手を振る。


不安と寂しさ−−

けれど、それよりも

まだ見たことのない世界、薬師としての成長−−


ミオは、頬を一筋伝う涙をそっと拭い まっすぐに前を向く。

そして王都へと続く新たな一歩を踏み出した−−

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