第0話 男女の関係とは落下から始まるものである。
まぶしすぎないヒロインを目指して────
荒谷さんは荒れていた。
「う、訴える!か、かかっ勝手に人のものを拾ったら犯罪だ!だってやってることスリと変わらないじゃん!け、警察呼ぶからな!縄で市中引きずり回されてしまえー!」
そんなめちゃくちゃな、どこからツッコミを入れていいか分からない言いがかりをつけられている少年は毛利想人。
明らかに冷静でない状態で想人に詰め寄る少女は荒谷古鈴。
二人は人気のない屋上へ向かう階段の途中、踊り場で対峙していた。
しかし、対峙していた、とは言っても、それはかなり荒谷さんの主観に寄った言い方である。想人からすれば敵対の意思などなく、むしろ善意を以って接しようとした結果がこれ。お年寄りに席を譲ろうとしたら「わしゃまだ若いわい!」と怒鳴られた時の若者のように、単純な驚きと善意が徒労に終わった無念とが混じったような表情で、彼はいたたまれなさそうにその場に佇んでいる。
どうしてこんな状況になってしまったのか。彼はこれまでこうならない努力をしてきたはずなのに、運命とはいかに残酷なのだろうか。
しかし起きてしまった事象はすでに過去のものだ。過去に戻ることはできない。過去は変えることが出来ない。……まあ、思い出話程度なら時間が経つごとに変わっていくが、それはそれとして。
過去は戻れないし変えられないが、振り返ることはできる。思い出話のように。多くの過去が積み重なって現在があり、また未来がある。つまり、今こそ想人は振り返るべきなのである。どうしてこうなった、と思った時には、回想をするべきなのである。
1か月前の入学式から今まで。走馬灯のように、パラパラと思い出していただこう。
……回想に入る前に一つだけ述べておくとするならば。
この物語は少女が空から落ちてきたわけでも、バナナの皮を踏んで滑って落ちてきたわけでもない。そんな大仰な、一歩間違えば人が死んでいるようなイベントでこの男女は運命の出会いをしたわけではない。
ただ、荒谷さんの落としたスマホを想人が拾い、その画面にやたら肌色や変な擬音が乱立していただけだ。
読んでくださった方はありがとうございます。
しばらく続ける予定ですので、時間のある際に是非。




