愛玩人間の長生きの秘訣
人間を愛玩する。一定数の人外にとって好まれるその行為を、人間側から取材できた例は数少ない。
インタビュアーの私は、その存在を前にして息を呑んだ。薄暗い部屋に立つそれは、人間を超えた気配を纏っていた。長い髪は微かに光を通す半透明の触手でできており、瞳は深い紅色をしている。性別も年齢も定かでないその人外は、膝に一人の少女を乗せていた。白いドレスを纏った彼女は、子猫のようにはしゃぎながらその胸に頬を寄せていた。私は思わず口を開いた。
「その子、本当に美しいですね。幸せそうで、見ているだけで心が温かくなります。」
それは穏やかに笑い、少女の髪を長い指で梳いた。目の前の人外からは微かに甘い傾眠香が漂い、私はその匂いに包まれるような心地よさを感じた。「ありがとう」とそれは静かに答えた。「私の白だよ。宝物なんだ。」
「白、ですか。素敵な名前ですね。どうやって出会ったんですか? お年はいくつでしょう?」私は好奇心を抑えきれず尋ねた。
それは目を細め、懐かしむように語り始めた。「出会いはね、傷ついた彼女を拾ったことからだよ。森の奥で血まみれで倒れていた。人間に捨てられたのか、それとも逃げ出したのか……私には関係ないけどね。連れ帰って手当てして、それ以来ずっと一緒だ。名前はそのときつけたんだ。年齢はね、120歳くらいかな。」
私は目を丸くした。「120歳!? 信じられません。だって、白さんは10代の少女にしか見えない。こんなに若々しくて……それに、貴方に甘える様子も、まるで幼い子どものようで。」
白は私の声に反応し、首をかしげてこちらを見た。透き通った瞳と丸みのある無垢な頬。彼女はそれの膝から降りることなく、その腕に抱きつき、「ねえ、この人だれ?今日はどうしたの?」と甘えた声で囁いた。それは優しく彼女を抱きしめ返し、温かい湯船のような柔らかな抱擁で彼女を包んだ。「ごめんね。不安にさせてしまったかな。気にしないでいつものように私の膝の上にいていいよ」と囁き返す。その声には深い愛が滲んでいた。
ゆっくりと顔を上げ、「驚くのも無理はないよ」とそれは私に言った。「猫だって野良の平均寿命はとても短いけど、家で飼えば20年生きる子もいるでしょう。質のいい餌を与え、毎日ブラッシングして、運動させていれば毛並みだって輝く。人間も同じだよ。我々が大切に飼えば、長生きすることもある。白は私が愛情を注いで育てたから、こんなに美しく、こんなに長く生きている。」
私は白を見つめた。彼女の肌は陶器のようにつややかで、髪は絹のように輝いている。だが、その瞳にはどこか焦点のない光が宿り、彼女の仕草は自分の意志で動いているようには見えなかった。私は尋ねた。「白さんは、いつもこんなに愛らしいんですか?」
それは笑い、白の頬にそっとキスを落とした。「性格も同様だよ。去勢した雄猫はいつまでも子どものように甘えるでしょう? 無闇な繁殖を防ぐことは飼い主の義務だ。人間もね、きちんと処置すればいつまでも愛らしく振る舞うんだ。白は私の手で全てを整えたから、こんなにも純粋で、私に甘えてくれる。」
その言葉に、私は背筋が冷えた。白は確かに幸せそうだった。肌触りのいい毛布にくるまれたようにそれに寄り添い、甘い香りに満ちた部屋で守られている。だが、彼女はそれの愛情以外、何も求めず、何も選ばない。ただそれの膝の上で笑い、首に巻かれた鎖を気にする様子もない。私はその光景に言いようのない違和感を覚えた。
「白は私の宝物だよ」とそれは続けた。「毎日、彼女を抱きしめて、彼女の髪を撫でて、彼女を守る。彼女がいなければ、私は生きていけない。君には分かるかな? この子がどれだけ私にとって大切か。」
白は目を閉じ、その胸に顔を埋めた。彼女の表情は深い安らぎに満ちていた。大きな存在に庇護され、愛される甘美さが彼女を包み、彼女はその腕の中で溶けるように身を預けていた。私はその姿を見つめながら、言葉を失った。白の美しさと幸せは眩しかったが、彼女がかつて持っていたかもしれない意志や選択が、今はどこにも見当たらないことに、私は静かに戸惑った。
「ご主人さま、今日は知らない人とばかりお話ししてる。こっちを見て。ねえ、ずっと白と一緒にいてくれるよね?」白が呟くと、それは彼女を強く抱きしめた。「もちろん、永遠に私のそばにいるよ。私の白、私だけのものだ。」その声は甘く、部屋中に響き、私はただ立ち尽くすしかなかった。