表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界恋愛短編

目が覚めたら──体が縮んでしまっていた!?〜鏡に映された願いとすれ違った恋の結末〜

タイトルあらすじ人物名、いろいろオマージュしておりますが、中身はファンタジーな異世界恋愛です


 私はイルド王国第一王女、クリス=サーガティア。


 幼馴染で婚約者のシーインと隣町の視察に来たものの、私と彼はいつも別行動。

 

 この日もそれぞれ別の馬車でやってきて、そしてすぐに離れ離れになった。

 

 ──昔はもっと近くにいたのに……。


 二年前、彼は弱冠二十二歳にして国の騎士団長に就任した。

 名門貴族の出身ということもあったが、誰よりも責任感が強く、剣術にも長けていたので、反対する者は誰ひとりといなかった。

 

 もちろん、婚約者の私としても喜ばしいことだった。

 

 しかし、それから仕事が忙しくなり、国を守るという責任感からか、どこか私に冷たくなったように見える。


 ──でも、シーインの仕事の邪魔しちゃいけないから……。


 この国の王女として、騎士団長の妻になる女として、国を守ってくれる彼の仕事の邪魔なんてしたくはなかった。

 だから、「寂しい」「悲しい」「切ない」なんて気持ちは、心の奥底にしまっていた。


 ──だけど、やっぱり……。


 昔みたいに、たわいもないことを話して、笑い合って、素直に気持ちを打ち明けられたらいいのに。


 そんなことを思いながら街中を歩く。

 退屈しのぎに立ち寄ったのは、街外れにあった小さな(ほこら)


 ──こんな場所に祠なんてあったんだ。


 木々の隙間にぽつりと(たたず)んでいて、よく見なければ気づかないほどだった。

 

 そこには古びた鏡があり、「願いを叶える鏡」という不思議な言葉が刻まれている。

 軽い気持ちで鏡を覗き込み、私はぼんやりと願ってみた。


 ──昔みたいに戻れたらいいな……。


 すると鏡からまばゆい光があふれ出し、徐々に視界が真っ白に染まっていく。


「……なに!?」

 

 驚きの声を上げたものの、不思議となにも考えてられず、すぅっと意識が遠のいた────。



 次に目を開けたとき、私は冷たい土の上にうずくまっていた。


「……ん」


 頭がぼんやりするが、身体に痛みはない。

 どうやら怪我などはしていないようだ。

 

 けれど、体が妙に軽い。

 違和感を覚えて地面に手をつくと、ドレスの袖口がずるりと滑り落ちた。


「……え?」


 驚いて顔を上げると、鏡に映ったのは──幼い少女の姿だった。


「な、なんで……!? どういうこと!?」


 震える手を伸ばし、鏡の表面をなぞる。

 どこからどう見ても、そこに映るのは十歳にも満たない幼い自分の姿。


「…………夢、じゃない……よね」


 亜麻色の髪は長いままだが、顔立ちは幼く、体も小さくなっている。

 着ていたドレスはぶかぶかで、袖はすっぽりと手を(おお)い、裾は地面に広がっていた。


「本当に、願いの叶う鏡だったの……」

 

 鏡に向かって呆然と呟く。

 確かに「昔みたいに戻れたらいいのに」と願った。

 

 ──でも……こんな形で望んだわけじゃない!


 だって、それは独り言のように思い浮かべた願い。

 本当に願いが叶う鏡とわかっていたなら、もっとちゃんと願いを考えた。

 

 焦燥に駆られるように、唇を噛みしめる。

 

「とにかく……元に戻らなきゃ!」


 何度も鏡に「元に戻して」と願い続けた。

 けれど、光を放っていたはずの鏡には、もう何の反応も見られない。


「うそ……戻る方法、わからないまま……?」


 強い絶望感に襲われる。

 この姿で、どうすればいいのか。

 

 王女としての立場は?

 婚約者としての立場は?

 

 もしかしたらシーインは「そんな姿では婚約を続けられない」と言うかもしれない。

 

 でも、それなら私はどうすればいい?


 行く当てもなく、頼る人もいない。

 王宮から離れたところで、小さな子供ひとりが生きていけるはずがない。


 泣きそうになりながらも、ふと自分の姿を見下ろす。

 ぶかぶかになったドレスの下に着ていた丈の長めなキャミソールが、ワンピースのように体を隠していた。

 子供の姿になった今の自分には、ちょうどいいサイズだ。


「……王宮に戻らなきゃ」

 

 ぐっと拳を握りしめる。

 シーインやメイドたちにどう誤魔化せばいいのか、それはまだわからない。

 でも、こんなところでじっとしているわけにはいかなかった。


 不安と焦りを抱えながら、私は小さな足で祠を後にした。



 * * *



 キャミソール一枚に素足という怪しい格好の幼女。

 道行く人々の視線が突き刺さるが、今はそれを気にしている場合ではない。

 幸いにも、お金だけは十分に持っていた。


 街を行き交う商人の馬車に声をかけ、王宮まで送ってもらえないか交渉する。

 相応の額に色をつけると、商人はすぐにニタッと下卑(げび)た笑いをして「それなら乗せていくよ」と了承してくれた。


 こうして、私は意外とすんなり王宮の門まで帰ってこれたのだった。


 

 とは言うものの。

 

 ──こんな姿で、門を通れるかしら……?


 シーインと一緒に王宮を出たのは昼頃だった。

 今ではすっかり日が暮れ、オレンジの空に藍色の色彩が薄く広がり始めている。

 おそらく、三時間ほどは気を失っていたのだろう。


 普段なら、とっくにシーインも王宮へ戻ってきている時間だ。


 足元に視線を落とし、今一度自分の姿を確認する。

 やはり、どこをどう見ても王女の姿ではない。


 ──どうしよう……。


 目を泳がせながらうろうろしていたせいか、不審に思われたのだろう。

 門の前に立つ二人の騎士が、こちらに目を向けた。


「おい、そこの子供。何をしている?」


 ──しまった……。


 門番たちに声をかけられてしまった。

 逃げるわけにもいかず、仕方なく前に進み出る。

 二人は厳しい目を向けながら、私を見下ろした。


「ここは王族と関係者以外は入れない。迷子か?」

「……いえ、違います」

「では、なんだ?」


 門番たちの鋭い視線は、とても第一王女に向けた視線とは思えない。

 だが、それも王宮を警備する騎士なら当然のものだろう。

 今の私は、ただの薄汚れた子供にしか見えないのだから。


 ──だけど……!


 ここで立ち止まるわけにはいかない。

 私はできるだけ堂々とした態度で胸を張る。


「私は……クリス王女の妹です!」


 二人が眉をひそめた。


「王女様の……妹?」

「そうよ! ちょっと事情があって、一人でやってきたの!」


 彼らは疑い深そうに私を見つめる。

 無理もない。

 

 だって私は、一人っ子なのだから。


「王女様に妹がいるなんて聞いたことがないが……」

「……そ、それは今まで秘密にされていたからよ! 私と、クリスお姉様しか知らないの!」

「……はあ?」


 門番たちの目がますます鋭くなった。

 自分でも無茶な言い訳だとはわかっていたが、今さら引き返すこともできない。

 

「嘘じゃないわ! 私、クリスお姉様のことなら何でも知ってるから! 今年十八歳で、私みたいな亜麻色の長い髪! それから、騎士団長シーインの幼馴染で、婚約者で……」


 苦し紛れに言葉を発しながら、私は心の中で叫ぶ。

 

 ──誰か……!


 すると、その瞬間。


「何を騒いでいる?」


 門の向こう側から聞こえたのは、聞き慣れた低い声。

 襟足が少し長い黒髪、責任感にあふれた青い瞳。

 藍色の騎士服を(まと)った、その人こそ。


 王国騎士団長であり、私の婚約者──シーイン=ドゥークだった。


「シーイン様、どうしてここに?」


 門番の問いかけに、シーインはわずかに眉を寄せた。

 

「執務室の窓から外を見ていた。隣街からの報せを待っていたんだが……門の前が妙に騒がしいようだったからな」


「隣街」という言葉に胸がざわめく。

 もしかしたら、私のことをずっと心配してくれていたのだろうか。

 まごついていると、シーインの視線がこちらへ向けられた。

 

「この子は?」


 彼の視線も決して暖かなものではなかったが、私は思い切って名乗った。

 

「私は……クリス王女様の妹です」


 シーインの眉がぴくりと動く。

 

「妹がいるなんて、聞いたことないが……?」


 怪訝(けげん)そうに私を見つめる。

 おおかた予想通りの反応だったが、それよりも、彼に嘘をついているという事実が苦しかった。

 

「それは……内密だったんです。今回は訳あって、ひとりで王宮に参りました!」


 自分でも無理があると感じていたが、必死に言葉を並べた。

 ここで正体を明かすわけにはいかない。


 ── もし「クリスです」なんて言ってしまったら……。


 信じてもらえなかったときの切なさや悲しさ。

 あるいは、ふざけていると思われて愛想を尽かされるかもしれない。

 本当に婚約破棄されてしまうかもしれない。


 不安ばかりが頭の中を支配し、喉の奥がぎゅっと締めつけられる。

 本当のことを伝えたいのに、怖くて言えなかった。

 

 シーインは目を細め、しばし沈黙したあと、かすかに息をつく。


「……確かに、昔のクリスにそっくりだな」


 シーインの呟きに胸が詰まる。


 ──だって、私はクリスですもの!


 そう叫びたい気持ちをぐっと押し込んだ。


「俺が面倒を見る。中に入れてやれ」


 シーインが告げると、門番たちは顔を見合わせた。

 

「しかし……!」

「こんなところで子供ひとり放っておくなんて、騎士団長の名に恥じる」


 揺るぎない口調に、門番たちは押し黙る。

 

 シーインの顔を見上げた目頭がじんと熱くなった。

 冷たくなったように感じていたけれど、根本の優しさは昔と何も変わっていない。


「きみ、名前は?」


 シーインは私と同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。

 凛とした物言いだったが、青い瞳には優しさが滲んでいるように感じられる。


「……アリス、です」


 咄嗟(とっさ)に思いついた名前を口にしていた。

 

「名前までクリスに似てるな」


 そう呟いた彼の顔は、ほんの少しだけ微笑んでいるように見えた。


 

 * * *

 


 シーインは丁重にもてなしてくれた。

 お風呂に、新しい服に、豪華なディナーまで、至れり尽くせりだった。


 だが、メイドや執事たちは(いぶか)しげな目をこちらに向けている。


 ──まあ、当然よね……。


 王女の「妹」だと名乗った、得体の知れない子供。怪しまない方がおかしい。

 けれど、それ以上は誰も深入りはしてこなかった。


「大事な客人だ」


 シーインが堂々と放った一言で、皆は何も言えなくなってしまったのだ。

 彼の行動はとても嬉しかったが、私は違和感を拭えずにいる。


 突然現れた身元もはっきりとしない子供に、ここまでの待遇をするものだろうか?

 普通なら、もっと警戒されてもおかしくないはずなのに。


「どうして……そんなに優しくしてくれるんですか?」


 恐る恐るシーインに尋ねると、彼はごく自然と答えた。


「困っている子供を、ないがしろにするわけにはいかないだろう」

「本当に……それだけですか?」


 まっすぐに彼を見つめる。

 すると彼はわずかに首をかしげ、口元にかすかな笑みを浮かべた。


「……アリスは、本当にクリスにそっくりだな」


 青い瞳は、どこか遠い昔を懐かしんでいるような気がした。


 * * *


 

 月明かりの落ちる夜の庭園。

 白い息が夜空に溶け込むように消えていく。


「どこへ行くんですか?」


 庭園の奥へと前を歩くシーインに問いかけると、彼は足を止めて振り返った。


「見せたい場所がある」


 静かに告げて、再び歩き出す彼の後を追った。


 たどり着いたのは、大きな木が(たたず)んでいる庭園の片隅。


「……ここは」


 見覚えのある場所だった。

 それは、私たちだけの思い出の場所。


「子どものころ、ここでよく遊んでいたんだ」


 シーインは懐かしむように木を見上げた。

 彼の黒い髪が、枝葉からこぼれる月明かりに照らされている。


「秘密基地だ、って毎日のように駆け込んだ。二人だけでずっと話して、笑って。それだけだったが、楽しかった」


 ──シーインも、覚えていてくれたんだ。


 私も楽しかった。

 この場所で二人で過ごす時間は、何よりも特別だった。

 

『楽しかった』と言ったシーインの横顔は、月光を浴びて憂いを帯びているように見えた。

 その姿に、胸がぎゅっと締め付けられる。

 

「相手は……クリスお姉様ですか?」


 そうであってほしいと思いながら、恐々と尋ねた。

 しかし、シーインの答えは私の期待とはまったく違うものだった。

 

「お前は、誰かをずっと想い続けることができるか?」

「……え?」


 思いがけない問いに、すぐに答えが出なかった。


 ──どうして、そんなこと聞くの?


 戸惑っている私を一瞥(いちべつ)した彼はふっと微笑んで、切なげに目を伏せる。


「……俺は、ある人のことをずっと想っている」


 ──ある人……。


 それは、私のことですか?

 聞いてしまいたい。でも、もし違ったら──そう思うと、喉がきつく塞がってしまって言葉が出なかった。

 シーインはゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「それなのに……いつの間にか、距離ができてしまった。彼女を守るために強くなろうとしたのに、気づけば、俺のほうが遠ざけてしまっていた」


 彼の言葉ひとつひとつが、胸に突き刺さる。

 

『守ろうとしたのに、遠ざけてしまった』

 

 それはまるで、今の私たちのことを言っている気がした。


「国を守る騎士団長として、常に凛々しくしていなければいけないと、感情を押し込めてしまった。そうしていたら、いつしか想い人に対しても、素直になれなくなっていたんだ」


 後悔と懺悔(ざんげ)が滲んでいるような彼の言葉が、夜空に紛れるよう消えていく。

 

「……その人のこと、今でも好きですか?」


 確かめるのは怖かった。

 それでも、もう知らないままではいられない。

 

 彼はひと息つくとわずかに目を細めて、まっすぐ私を見つめた。

 

「ああ。何に変えても守ると、そう誓った」


 迷いのない声。

 シーインの青い瞳は、誓いを立てたあの頃と何も変わらない。

 

「……お前にこんなことを言っても仕方ないのにな。クリスそっくりなお前を見て、つい昔を思い出してしまった」


 そう言って、ため息混じりに嘲笑(ちょうしょう)する。

 彼は諦めにも似たような表情で夜空を見上げた。

 

 ──やっとシーインの本音を聞けた気がする。


 避けていたのは、私も同じだった。

 

 彼の負担にならないように。

 国を支える彼の代わりに、私が彼を支えられる存在にならなければ。

 シーインの隣に立つにふさわしい王女であり、妻でいなければ。

 そう思えば思うほど自分の気持ちを押し込めてしまい、いつしか本音を閉ざしてしまっていた。

 

 本当はもっと素直で、何でも話し合える仲だったはずなのに。

 お互いを大切に想っていたのに、いつしか気持ちはすれ違い、気づけば埋められないほどの溝ができていた。


 ──その溝を、今なら埋められるかもしれない。

 

「……私が、クリスです」


 夜の(とばり)の中、夜風が私の告白を運んでいく。

 

「何を……」


 シーインが息を呑む。


「今日、隣街に視察に行きましたよね。私、途中で(ほこら)に足を運んだんです。そこに、『願いを叶える鏡』と書かれた古びた鏡があって……」


 私は彼にことの顛末(てんまつ)を伝えた。

 

 鏡に向かい、「昔みたいに戻れたら」とふと願った。

 すると鏡はまばゆい光を放ち、気づいたときには、この姿になっていた────。


 言葉を紡ぐたび、シーインの目が開かれていく。

 全部を説明した後、彼はため息を一つついて、全身の力を抜いた。

 

「通りで、クリスと瓜二つなはずだ」


 驚きと戸惑いを孕みながらも、シーインは安堵しているようだった。

 

「……信じてくれて、ありがとうございます」


 張り詰めていた緊張が解けていく。

 こんな荒唐無稽な話、誰も信じてくれないと思っていたのに。

 シーインは、迷いながらもすぐに受け入れてくれた。


 彼はしばらく私を見つめ、深く息を吐く。


「……クリスがいなくなったと聞いたときは、心臓が止まりそうだった」


 かすれ気味の声だったが、表情は穏やかだ。


「なのに……門の前でお前を見たとき、不思議と安心したんだ。こんなふうに心が落ち着くのは……クリス、お前だけだ」


 彼の言葉が胸に染み込んでいく。

 その声音も、私を見つめる瞳も、すべてが優しくて、懐かしかった。


「シーイン……私、国を守る騎士団長の妻として、もっとあなたを支えられるようになりたい。王女として、もっとあなたの力になりたい。そして、クリスとして……ずっとあなたのそばにいたい」


 やっと言えた、本当の気持ち。

 塞いでいた想いが(せき)切ったようにあふれ、気づけば涙が頬を伝っていた。


「俺も、やっと本音が言えた気がする」


 シーインはそっと涙を拭い、そのまま私の額に唇を寄せた。

 触れるだけの優しいキス。

 それだけなのに、まるで全身が彼の優しさに包まれたようだった。


「そばにいたはずなのに、いつの間にかすれ違ってしまっていた。でも、もう今日で終わりだ。気づかせくれて、ありがとう」

「いえ。私も、もっと早くに思いを伝えていれば……」


 ふとシーインの温かな手に包まれて、言いかけた言葉が止まってしまう。

 彼の青い瞳は、まるで満天の星が映っているようだった。


「やり直そう。今度は、独りよがりにならない。それに、俺は独りじゃない。クリスがいてくれる」

「……私、こんな姿ですけど、それでもやり直せますか?」

「どんな姿でも、クリスはクリスだろう? 俺の愛する人だ」

「……ありがとうございます」

 

 彼の顔が近づいてくる。

 一度だけ微笑みを交わして、そして、静かに目を伏せた──。



 * * *



 数日後。

 私はシーインと共に再び隣街へと足を運んでいた。

 

 あの日から、私たちの関係は確実に変わった。

 今までのすれ違いや誤解が解け、素直な気持ちを打ち明かしたことで、心は晴れやかになっている。


「子供の姿になっていたなんて、なんだか夢を見ていたようですよ」

「俺は幻かと思った」


 隣を歩くシーインに笑いかけると、彼も微笑んでくれる。


「今を共に歩くなら、やっぱりシーインと一緒に成長したこの身体じゃないと」

 

 あの日の夜。

 キスをしたあと、私の体は元に戻った。


 王子様のキスで呪いが解けたのか。

「昔みたいに戻れたら」という願いが叶って、鏡の力がなくなったのか。

 

 どちらにせよ、小さくなったことで「お互いの独りよがりだった」と見つめ直すことができた。

 私たちは、やっと本当の意味で向き合えたのだ。


「こんなところに(ほこら)なんてあったのか」


 シーインが驚いたように呟いた。


「私も、先日初めて知りました」


 手に持っていた花束を祠の前に置き、手を合わせた。


 ──願いを叶えてくれて、ありがとうございました。


 しんとした静寂の中、風の音だけが耳に届く。

 鏡はただ目の前にいる私を映し出している。

 花が風に揺れるたびに、鏡の力がすうっと消え去っていくように感じられた。

 

 肩に手を添えたシーインも、同じように祠に手を合わせて祈りを捧げた。

 

 祠の前で風が吹き抜ける。

 温かい風は、私たちのこれからの未来を祝福してくれているようだった。


「これからも、ずっと一緒に」


 シーインの声が優しく私の耳に響く。


「はい。ずっと……」


 言葉にしなくても、伝わる想いがそこにある。


 彼の手をぎゅっと握りしめ、新しい未来に向けて一歩踏み出した。


 あの日の願いがこうして現実になったことに、心の底から感謝しながら。


お読みいただきありがとうございました


もうすぐあの映画の時期だなと、ふと思いついたアイディアです


ブクマや評価が今後の励みになりますので、ぜひポチッと応援お願いします★★★★★


連載中の恋愛ファンタジーもよろしくお願いします★

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここまで見ていただきありがとうございます。
★こちらのじれキュンなファンタジーも、ぜひよろしくお願いします★

ひたむき聖女と俺様悪魔の王道ファンタジー
【 聖女ですが契約した悪魔と禁断の恋におちるようです】
html>
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ