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いますぐ働けギルドメン!!

作者: 水然天

夏真っ盛り、って。ほんと、アチーナー。。棒のアイスが、溶けてドロドロです。

なんで、こんなにアチーのに、スーツで街中を歩くなんて、納得いかないなー。

したくもない髪型にするために、美容院にまで行って、バイトで稼いだ少ないお金も、就職のために使うのが、納得いかないっ。

何から何まで、いやんなるっ。

あーあ、もう就職決まった人はいいよなー。

なんで、毎日、無駄に時間を使って活動してるんだろう。いつから、こんな制度が生まれたのか。恨むよ、ほんとに。


アルバイトでいいじゃん。

いやいや、ダメなんだ。


もっと、稼がないとダメなんだって。

日本から飛び出したいって。教室で周りの人が話してるのを聞いたけど、ほんと、そう思う。こんな日本にいたって、いいことないよ。


青い澄み切った色の海に行きたい。

こんなに暑いのに、コンクリートに囲まれた都会を歩き回っている方がおかしい。


いま体温計で体温を測ったらとんでもない温度だと思う。気温だって、猛暑で日本の過去50年間で最高の気温になるって話だし。今朝のネットニュースでも言ってたし。歩いてるだけで、死んじゃうよ。


昨日の面接は、良いところがまったくなかったよなー。


一緒に面接を受けてたメンバーに恵まれなかったよな。グループの面接とか、ほんとにやめてほしい。じっくりと話がしたいのに、周りのペースを見て反応するのは、疲れるし。なにがしたいのよっ。

本領発揮する前に面接終わってるし。


ーーって、やる意味ないでしょ。

確か、今日までで20社は超えてるよね。

たくさん面接しても誰も褒めてくれないし、やっぱりもうやめようかな。面接の時点で挫けてしまう人はどれだけいるんだろう。わたしだけかな、こんな気持ちになっているのは。


亮介はいち早く、銀行の内定取れたって言ってたし。わたしは焦るばかりで、成果が一個も出てこない。

棚からぼたもちみたいなのを期待するしかないか。

たまたま、社長が、目の前に現れて、トラブルに巻き込まれるみたいな展開になってくれないかな〜。


もう歩き疲れたからタクシー使っちゃうか。バスも電車もない、こんな場所で真夏の猛暑に刃向かう気はありませんので。


さっきから、道路に車が走ってないよねー。蜃気楼が見えてるよね。ビルが揺らめいてみえるし、そろそろやばいかなー、わたし。


あそこの木陰で少し休もうかな〜。


携帯の電池もなくなってきたから、面接の連絡を受けらんなかったら、困るし。


来月の家賃も、なんとかしないと。


もう、ふらふらしてきた。あの自動販売機で水を買って飲むか。


古びた自動販売機に飲料水が並んでる。

ほぼ、何も考えずに、機械の取り出し口に落ちてきた瞬間にボトルを取り出し、すぐにキャップを外して飲んだ。


獣か。


ごくごく。ああー。冷たい水を飲んだら、生き返るな〜。こんなにうまい水って、ないよね。


あれ、もう、なくなっちゃった。

500㎖のわりには、空っぽになるのが早かった。


どうしよう。このままじゃ、家に帰るのだって、厳しいと思うよ。

エアコンの効いてる部屋でベットで横になってたいよ。去年の今頃はなにしてたっけ。


特に何も考えてなかったなー。バイトして、帰り道でコンビニで買ったアイスを食べるのがいつものパターンだったよね。


まじめにやってる人は、いつもどーしてるんだろう。

面接でいつも何をしてますかって聞かれて、まじめにバイトしてますって、答えてたからいけなかったのかなー。


亮介からは不器用だって、いつも言われてるけど。

別にそこまででもないと思うんだけどな〜。

もしかして、言われ慣れてるってのも。問題があるのかもしれん。


ヒメしか勝たん、みたいな展開で。

社長秘書にでも、なんでも、雇ってくんないかな〜。


なんもしなくても給料もらえる仕事なら、なんでもいいんだけどなー。そういう仕事って、すぐには見つかんないかなー。


クシャリ、というプラスチックのボトルが潰れる音が、ぼんやりと霞むカゲロウの中で聞こえた。


ーーなぜ、だろう、夢のように、ゆらめきながら僕のこころの声を知っていてくれていたかのように。遥かなたにある、向こう側の世界から、小さく小さく、誰かの声が聞こえるような気がしたーー。


ーーさて、さかのぼること、1ヶ月と3週間前。

台風が何度も入れ替わりやってきて、ようやく過ぎ去っていった低気圧の空気が、べったりと身体にまとわりつく、辛い日々の、なんとなく、やるせない、暑い夏の夜。とある山の奥深く。人里から離れた、辺境の地にて。

ーーである!


ダム湖百選に選ばれた過去の栄光にしがみつき、バブル期に国家予算の3分の1を使ったと噂される僻地。


まるで、時が止まったかのような静寂の中、巨大な1棟建てのタワーマンション、ボロボロになった廃墟が遺されているーー。


近くにいた住民は、もう誰ひとりとして、残っていない。

誰からも見放された僻地に、ポツンと建物が起立している。


数十年の時が経ち、あちこちに草や木が伸び放題になり。荒れ果て、人の気配は、一切ないーー。


きっと、堅牢であった建物は、建設途中でプロジェクト中断の声を聞くとともに、そのまま放置された状態のまま、化石のようになっていたーー。


そして、開発中にバブルが弾けて、プロジェクトは頓挫。全てが中途半端なままで投げ出されたため、窓の部分には何も嵌め込まれていない。


ただの剥き出しのコンクリートのまま。

タワーマンションの慣れ果てであるタワーは、天を貫くかのように、巨大な石の柱となって、鬱蒼とした暗い山谷の中で鎮座し。

ボロボロとあちこちが朽ちかけていたーー。


ーーだが、しかし!!!


巨大コンクリートの建物の地下に、縦30kmの天然の洞穴があり、その地中のそのまた奥深くに。


大理石の大神殿のような、真っ白な箱型の構築物が密かに存在しているのであったーー。


「カネカセーゲ様のお心のままに」


真っ赤なマントを身に付けた背の高い女性がふわりと白い大理石の床に跪いた。


女神像ではなく、あきらかに不穏な空気を周りに放っている、邪神像に向けて。


さらに深く、平伏した。


「シャッキーンよ!お前のようなものでも、カネカセーゲ様の御心によって、この世に生かされていることを忘れるではない!」


静寂の中、大司祭と思われる白いローブを着た、小柄で小太り気味の男から怒りの声が発せられた。


剥き出しのままのコンクリートの壁を覆い隠すかのように、古今東西のあらゆる時代の札束が山積みになり、札束で広間の床は埋め尽くされているーー。


「ノルマをしっかりとこなすことが出来ぬのであれば、生贄となって、カネカセーゲ様に、その命を捧げるのか。それとも信仰の証である宝の札束(トレジャーキャッシング!!)を捧げるか」


どうするのか、お前次第だ。次の集会まで、貴様に猶予をやろう! それまでになんとか、ノルマ達成に向けて。街中からありとあやゆる金を吸い上げ、尊いトレジャーキャッシングを、祭壇に積み上げるため、命懸けで、やり遂げよっ!!!と言いながら、一段高い台座から、目の前にいる真紅に染まった女性を一瞥した。


「チーズ・フォン・ドゥ・ガーリック様!!」


「必ずや、邪神カネカセーゲ様の御心のまま、わたくしめに与えられたノルマを、しっかりとやり遂げてみせますわっ!!!」


真っ赤に染まったマントを身に付けた女性は、

すっきりと透き通った綺麗な肌をキラキラと輝かせながら、キーンと耳に突き刺さるような声音を発した。


そして、接見の間を、颯爽と後にし、瞬きのごとき、一瞬で、その場から姿を消した。



ーー隣の大広間に向かって飛び込んでくるなり、シャッキーンは怒鳴り声をあげて、当たり散らした。



「お前たちのせいで、カネカセーゲ様のお心のままにすることが、できなかったじゃないの!」


「あんたたちだけの問題じゃないのよっ!!!この世のすべては、カネカセーゲ様のもの」


「そして、いまこそ、カネカセーゲ様のお力を示さなければ、ならないのよっ!!!」


本当の神というものがなんなのかを、愚民どもに教えてやらなければならないのに、あんたたちのせいで、すべてが、台無しだわっ!!!!!と周りの使徒たちに罵声を浴びせながら、バタバタと音を立てて、地団駄を踏んだ。


その長身の女の目は、燃え盛る炎のように、赤く、熱く燃え盛っているーー。


数百人いる使徒たちに囲まれ、白いローブがまるで生き物のように蠢くと、ふと垣間見えた、少女のような横顔に、はらりと涙がこぼれ落ちた。


まるで真っ赤な一輪の薔薇の花のように鮮烈な色彩と色香を放ち。気高く、誇り高く、命がけで、咲くかのようだった。


白い使徒たちは、次々と、真の姿を表すと、どす黒く、醜い姿に変貌し、シャッキーンの前に、平伏した。


「「「シャキ、シャキ、シャキ」」」


「「「シャッキーン様、万歳!!!」」」


黒い固まりのようになった、使徒たちは、シャキーンの周りに数百人と集まった。


真紅に身を染めて、その横顔から、きりりと凍るような、空気を一瞬で凍らせるオーラを放って、大広間に透き通る声音が響き渡る。


「ーーさっさと、あんたたちのやるべきことをやりなさい!」

「やる気がないなら、生きている価値がないわ」

「ボーナスも、月給も、ゼロよっ!!!」

「さあ、いまこそ、あなたたちの真の力を、いまいましいハタラックに見せつけてやりなさいなっっっ!!!!!」


使徒たちはざわざわと蠢いたーー。


そして、一人の薄汚い獣のような男が一人、いや一匹。シャッキーンの前にのろのろと歩み出たーー。


「ぐううぅうぅ、シャシャシャ、シャッキーン様!!申し上げます。」


憎くて、憎くて、憎くい!忌々しい!ハタラックの奴らに、今度こそは、決着をつけてやらねば、なりませんぞっっ〜!!!と大袈裟に叫んだ。


そして、怒りでブルブルと震えながら涙ながらに訴えて平伏した。


シャッキーンは使徒たちを睨みつけて叫んだ。


「今月も、お下劣でお下品な!! 地球防衛庁直轄 明朗会計課 ハタラックの職員たちの見事な活躍によって・・・あれだけの時間をかけて準備していた、キャッシング回収が不可能になりました。申し訳ありません」


「ゆるふわ怪物 猫騙し機能付き、笑顔が可愛いがトレードマークの【ニャン次郎くんマークⅡ】が、一所懸命に、着飾り。そして、少しだけ、いつもよりも頑張ってツンデレで、甘えた態度で。いくつもの街で巻き起こした混乱も、ハタラックの活躍で、すぐに鎮圧されてしまいましたあああぁぁ。あああ、いと悲しや〜」


憎たらしいぞ、ハタラックめ!!!と、身体全体で悔しさを表現するかのように、怪人は、その場で大きくゆさゆさと大きな身体を揺らしながら、シャッキーンの目の前で地団駄を踏んだ。


まるで、ただをこねる子供のようになって大きな声音で、泣き叫んだ。


そして、小さな声で、シャキーンに甘える声音で懇願した。


「なんとか、今月に限り、年に一度限りの特別支給のモンスターを、盛大にご召喚いただけないでしょうか」


黒い静寂があたりに充満したーー。


ただ一人の怪人だけが、シャキーンの前で縮こまりながら、額から滝が流れ出すかのように、吹き出す汗を手で拭い、懇願した。まるで塩をかけられた直後のナメクジのように、無様で、醜い姿をさらしていた。


平伏している数百人の使徒たちも、一緒になって、恐る恐ると、シャッキーンの顔色を伺うように、じっと見守っていた。


静寂の空気を、突如壊すかのように、耳を劈く、真紅の声音が白い壁に反響し、エコーがかかったように響き渡った。


「ふんっ!いいでしょう」


「いつも、あなたたちは不甲斐ないものね。あなたたちだけじゃ、なにもできないのは、もうわかっているわ!」


「来月支給予定のモンスターを、前借りで召喚してあげるから、お前たち!」


「こころから感謝しなさいな!!」


「「「シャッキーン様、ありがとうございます!」」」


「「「シャッキーン様、万歳!!!」」」


使徒たちは、はしたなく喜び、ハイタッチなどをしながら、小躍りして無邪気に喜んだ。


「まったく、しょうのない子たち」


「迷える子羊に、そっと救いの手を与える、それが、わたくしの役目」


「もっともっと、感謝して、褒めちぎり。わたくしのことを崇め、奉るとよいわ!!!」


赤いマントが、その場でクルリと回転し、目の前で両腕をクロスさせて、ピタッと立ち止まると。


スラリとしたプロポーションをまるで見せつけるかのような決めポーズのまま、目の前の空間を睨みつけ、そして、しばし静寂が訪れた。


「サンジュッ、パーセンッツ!!!」


「ボーナスゥ!!アンナゥェップッッッ!!」


「ブラック企業の星、天引きの魔王たちよ!」


「働き過ぎのワンオペ支店長たちよ!」


「ーー出よ! キングフェイクキャッシュカード男!!の異名を持つ怪人、ゴールデン招き猫キング3世っ!!!!!」


「仮初のマネージャーパワーを発揮し、負債を撒き散らせ!!!」


「そして、ハタラックともども、街のすべてを壊滅させなさい!!!」


シャッキーンは甲高い声音で叫ぶと、怪人の髪の毛の色がネオンのようにちかちかと明滅し、シャッキーンは、その場でばたりと床に倒れ、昏倒した。


暗闇の中、2体の怪人が煙の中から現れたーー。


「「イエス!キャッシング!!!」」


白い使徒たちと召喚された怪人たちは、暗闇の中で散り散りになって、建物から霧散していった。


そして、あたり一面、静寂に包まれた。


しばらくして、シャッキーンは、ゆっくりと立ち上がると。口の周りの汚れを手で拭いながら、つぶやいた。


「ふう。これで、今月のノルマは、どうにかなりそうだわ。ふふふ、ふふふふふ。うふふふふふふ…」


真っ赤なマントが大きく膨らむと、暗い影の中でふわりと舞って、まるで液体の中に溶け込むかのように、そのまま静かに、闇に消えていったーー。


「メエエェー」


そして、その様子をじっと見つめるかのような、負のキャッシングエネルギーを帯びた【山羊の精霊もどき】たちが、すうっと、夜空を横切ると。


梅雨の小雨のように、いくつかの小さなほかの精霊たちも、山谷を、ざわざわと行き交い、やさしく包んでいくかのように、しずかに消えていったーー。


ーー


ーー


To be continued




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