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46.清廉なるエゴイスト


「ネモぴ~!!」


 ユリが、顔をぐちゃぐちゃにして抱きついてきた。


「ウチ、ネモぴがもう帰ってこないかと思って、心配で……!」


 ネモも、ユリの背中に手を回した。


「心配かけて、ごめんなさい」



***



 ネモの安否を確かめたユリには、一旦帰ってもらうことになった。

 なんでも、ロイから落ち着いたらネモの屋敷に帰す旨を伝えていたのだが、一秒でも早く会うときかなかったらしい。


 今いるのは、リュー博士のラボだった。

 パーティーの時に会った、ロイの知り合いだと言っていた博士だ。


「まず、ネモフィラさんには謝らなければいけないね」


 リュー博士は申し訳無さそうにしていた。


「君が連れ去られてしまった責任の半分は、ボクにある」

「どういうことですか?」

ゲートだがね、あれは実はいくつもあるんだ。自然発生したものは二年前にネモフィラさんたちが通ったひとつだが、他にも人為的に作られたゲートがいくつかある。僕の研究によってね」


 ネモにも話の流れが読めてきた。


「じゃあ帝国が通ったのは」

「そう、それらのゲートのうちのひとつだ。封印はしてたんだけどね。まあ言い訳にならないか。ともかくそれが悪用されたせいで、ネモフィラさんに危険が及んでしまったんだ。本当にすまないと思ってる」


 ネモはなんと言えばいいのかわからなかった。

 悪いのは帝国であって、この人ではない気がしたのだ。


「古い放棄したゲートなんて細かく監視していなかったから、気付くのが遅れてしまってね、それでロイさんに動いてもらってたんだけど、まあ間に合わなかったってわけさ」

「じゃあ、ロイさんと知り合いだったのって?」

「プライマ人だから研究対象として色々協力してもらってたのもあるけど、本格的に仕事を頼んだのは帝国の動きを掴むためさ。なにしろプライマ人と戦闘となったらこっちの人間は十中八九やられちゃうからね。ドンパチに関しては専門家に任せたってところさ」

「今、帝国の動きはどうなってるんですか?」

「怪しい動きはないよ。なにしろ正式な交流が再開してるからね」


 それを聞いて、ネモは皇帝の金色の瞳の記憶が蘇った。

 あの侵略しか考えていない瞳を。


「ボクにはわからないけど、帝国はワルモノなんだろう?」


 リュー博士の言葉に、今まで話を聞いているだけだったロイが笑った。

 頭の後ろに手を回して、壁に背を預けながら笑いをこぼしている。


「悪者かはわかりませんけど、共存の意思はないと思います」

「共存の意思はないというと?」

「侵略を考えているということです。わたしは皇帝の口から直接聞きましたから」

「そうか、やっぱりそうなのか、困ったな……」


 リュー博士が落ち着き無く歩いた。

 この博士もどこか変わっていると思う。

 ネモの感覚から言えば、理屈で危機はわかっているが、実感はできていない。そんな感じだ。


「で? 嬢ちゃんはどうするつもりなんだ?」


 ロイが壁から離れて言った。


「帝国を止めたいと考えています」

「言い切るね。覚悟が決まったわけか」

「言い切ります。覚悟は決まりました」

「おもしろい、なら俺も協力してやろう。なにせ俺は嬢ちゃんに1000万の借金があるからな」


 そこでリュー博士が、


「え、1000万くらいならボクの払った報酬で――――」


 ロイが、すんげぇ目でリュー博士を睨んでいた。


「ではとても払いきれないよね、そうか、ロイさんはネモフィラさんにとてつもない借りがあるわけだね!」


 リュー博士は気味の悪いくらい陽気な口調で言った。

 ロイはリュー博士を無視して続ける。


「で? どうするつもりだ?」


 ネモの中には、漠然としたものであるが答えはあった。


「なんなら嬢ちゃんがミューズを扇動して、こっちから仕掛けさせるか?」


 それについては考えたことがあった。

 実際にそういった状態になるかはともかく、現時点でミューズが本気で帝国と戦った場合、勝つのはミューズであるはずだ。

 ロイの存在もあるし、ミューズ側から帝国外の国に働きかける手もある。手段を選ばずに戦えばほぼ確実といって良い勝率が期待でき、単に将来的な侵略を阻止するという目的なら最善手のひとつになるかもしれない。

 しかしそれは侵略を阻止するだけのもので、ネモの願いを叶えるものではなかった。


「それはダメです。わたしは帝国の侵略を止めたいんじゃなくて、プライマとミューズに仲良くなって欲しいんです」

「えらく少女趣味な目的だな。それとも女神の化身的なあれか?」

「そんなに崇高なものじゃないですよ。わたしはただ、ふたつの世界が手を取り合って笑えるのが、一番いいことだと思うだけです」


 ネモはそこまで言ってから、考えを変えた。


「いや、違いますね」


 根本にあるのは、もっと個人的な理由だ。

 誰かに幸せになって欲しい。そうかもしれない。

 誰かに笑っていて欲しい。そうかもしれない。

 しかし、それは根本的な理由ではなかった。


「本当の理由は、わたしがただ笑っていたいからなんだと思います。できることがあるのに、それをせずにここで逃げてしまったら、たとえ平和に暮らせても一生逃げたことを胸にかかえて生きることになります。わたしは、わたしがなにも気にせずに笑っていられるように立ち向かうだけです」

「急にわかる話になったな。じゃあみんながニコニコ笑える世界にするにはどうするつもりだ?」


 ネモは自分の中に浮かんでいた答えを口にした。


「わたしが聖戦を挑もうと思います」

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