97話:無詠唱2
授業内容は面白いので、聞きながら私はノートにとある10節の詠唱を書いた。
中級魔法である。これをどうにかして1節にできないかというものである。
一応私は無詠唱でいくつか魔法を発動させられるけど、全てというわけじゃない。だから一つずつ魔法を覚え、長いな、手間だな、ここ短くできんじゃね?って思ったら、自分で省略化させていき、最終的に無詠唱で発動できるようにしている。
ここと、ここをまとめられる言い回し……こうしたらどうかな。あぁでもそれだと威力が少し下がるな。ならここを……
「魔法はその昔、絶対の強さを持っていましたが、その分リスクがありました。それが詠唱です。詠唱を唱えないと魔法が使えないから、その前に攻撃されたらあっという間に倒されます。特に昔は詠唱が長かったですから」
「じゃあ、今詠唱が短くなったのはそれが理由ですか」
「もちろんそれもあります。ただ、どんなに省略化されても詠唱は結局のところ弱点です。それでは、魔法を使う人間を手っ取り早くつかえないようにするにはどうしたらいいのか、わかる人はいますか」
先生の言葉に生徒たちは考えるけど、なんとまぁとんでもないこと聞いてるな先生は。普通はそういう発想をする人なんていない。でも、考えてみれば確かにその通りと納得せざるを得ない。
私は、10節の省略化の手を止めて手を挙げた。
「はい、トレーフルさん」
「……喉をつぶす」
教室が静まり返る。同時に数名の生徒が自身の首に手を伸ばした。
詠唱は唱えること。つまり言葉、声である。
声さえ出なければ詠唱はできなくなり、魔法の発動もできなくなる。
先生がそう尋ねるように、私がすぐに答えたように、この発想をする人は全員じゃないにしろ、少なからずいたはずだ。
「その通りです。声を奪えば詠唱はできず、魔法も発動しません」
「じゃ、じゃあどうすれば!」
「そう怖がらないでください。そんなことをされれば人口はみるみる減ります。そうならないように開発されたのが、魔道具や魔法陣です」
魔力を注ぐことで動く魔道具や声の代わりに言葉を文字にして発動させる魔法陣。それが昔の人が考えた、別の魔法発動の形である。
魔法陣や魔道具があれば、詠唱しなくても魔法が使える。ただまたそこには問題が生まれる。
「結局は道具なので壊れたり破れてしまえば魔法は発動しなくなります」
「じゃあやっぱり」
生徒たちの不安を煽るね先生は。
まぁ結局は授業だし、恐怖を感じさせるのも教師として必要なことだろう。
私自身も、魔法が怖いものだってことはわかってる。
喉をつぶす潰さない関係なく、自分の中にある魔法は大きければ大きいほど幼い頃に暴走しやすい。それが、今の私という存在。
「確かに、詠唱すれば喉を潰され、かといって魔法陣や魔道具を使えば消されたり壊されたりします。だからこそ、私の所属する魔法塔の人間はとあるものが究極の魔法発動の形だと結論付けました」
「究極の魔法発動の形、ですか?」
「えぇ。それが……「無詠唱」です」
その時、ほぼ同時にチャイムが鳴る。授業終了の合図だ。
残念。10節の省略化はできなかった。
「今日の授業はここまでです。今日習ったこと、しっかりと頭に入れてくださいね。試験も近いので、きっと何かの役に立ちますから」
大きく背伸びをして勢いよく突っ伏す。
眠たい。寝たい。このまま眠りにつきたい。
「結構面白かったですね」
「まぁ詠唱の省略化は、戦いにおいて必要なことだからな」
「昔よく一緒にやったね。懐かしいなぁ」
「ほとんどお前の実験に付き合う形だったけどな」
「ありましたね。空をまったり、湖に落ちたりいろいろ……今思えば、よく生きてたなって思いますね」
シルビアさん。なんか遠い目してますよ。
ルヴィーも似たような顔を。今更だけどごめんて。あの時はその……楽しくてつい。
「次なんだっけ」
「魔法薬学の授業ですよ」
「今日は何が爆発するかなぁ」




