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94話:女と女の戦い

体格的には先輩の方が大きい。

あ、言い方が悪かったな。身長が高いって意味です。身長が。

170ぐらいだろうか。体もすらっとしてるし、正直そこら辺の男よりもモテそう。

同じ女とはいえ、力の方はウエンディー様の方が上。さて、どういう戦法でいこうか。


「それでは、僭越ながら僕が審判を務めます」


そう言って、自ら審判に名乗りをあげたハーヴェンク。三代騎士家系の令息だからという理由もあるが、まぁただ間近で見たいだけかもしれない。


「勝敗は、相手が負けを認めるか、明らかな敗北状態になったら終了とします。二人とも、それでいいでしょうか?」


私もウエンディー様もそれに同意をする。

そういえば、同性と剣を交えるのは初めてかもしれない。

普段は異性とばかりだから、むしろ同性として楽しみで仕方がない。


「それでは……はじめっ!」


先に動き出したのはウエンディー様の方だった。

勢いよく私の方へ走り込んできて、そのまま勢いよく突いてくる。

私はそれを防ぐが、先輩はそのまま体を回転させながら剣を振り上げ、力一杯振り下ろす。

それを受け止めるが、やはり身長差があるため少し重く感じる。

流れるような剣捌き。すごい、今まで戦ってきた相手の中で、とても綺麗だと思えた。できることなら、外からみたかった。

グッと押し込まれる剣。私はチラリと足元に視線を向ける。

わずかに右足の土がめりこんでいる。

押されるたびに体が逸れていき、今にも地面に倒れそうになるが、残念ながら日々の鍛錬で体感がかなりいい。そう簡単には倒れない。

だから、私は今にも倒れそうな体を片足で支え、逆の足でウエンディー様の体を支えている足を払った。

ウエンディー様の体が前に倒れると同時に剣を滑らせながら下から抜け出し、ウエンディー様が体勢を立て直す前に、手にしている剣を勢いよく横に払い飛ばした。

そして、ウエンディー様がグッと体勢を整えると同時に、顔前に剣をつけつける。


「そこまで。勝者、トレーフル」


歓声と拍手の音。

そういえば、こんな大勢の前で剣を振るったのは初めてだったかもしれない。

地面に膝をつく彼女に手を伸ばせば、顔をあげたウエンディー様は笑みをこぼして手を握ってくれた。


「完敗です。さすがトレーフル様です」

「……ウエンディー様。自分の剣に自信を持ってくださいね」


ヘーオス様が言っていた。武人は負けず嫌いが多い。どんなに取り繕った笑顔を浮かべても、悔しいという気持ちが全くないわけじゃない。

彼女も、口では、表情ではさすがと笑っても、たとえ相手がきっかけを与えた相手だとしても、自分の剣に自信があっただろう。


「ウエンディー様の剣は十分通用します。普通の女性であれば、力で先輩が勝ちます。男性であれば、あそこまでの体の反り方になって仕舞えばそのまま倒れます」


相手が私だったから、ということは口にしたくなった。

だってなんだか嫌味っぽくなるでしょ。いわゆる、相手が悪かったなんて言葉は、傷口を抉る。


「また機会があれば手合わせをお願いします。同性でこうやって剣を交えれる人はいないので」


再び手を握ってそういえば、彼女はわずかに目に涙を滲ませて、「はい」と答えてくれた。


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