93話:女を舐めるよな
その発言に、流石に黙っていたハーヴェが声をかけようとした。
だけどそれを、隣にいたルヴィーが止める。
諦めろというように首を振るが、彼自身も怒りを感じているようだった。
「なんでも、だと?」
「はい。先輩が私に勝てばどんな命令でも聞いて差し上げます。それでも、手合わせしていただけませんか?」
「なんでも、なんでもね……」
下品な笑みは、すぐに何を想像しているのかわかってしまう。
ホント男って「なんでも」っていうとすぐそういう想像をする。
まぁ、顔がいい人だったらいいけど、彼は好みじゃない。
「いいだろう。相手をしてやろう」
「ありがとうございます。あ、もちろん私は魔法の使用はしません。純粋な剣術勝負でお願いします!」
「別にハンデぐらいやってもいいんだぞ」
生徒たちによってあけられた訓練所中央。
多くの騎士科の生徒が私たちの勝負を期待する。
ただ、彼と同じように数名の生徒は男が女に負けるはずがないと思っているのか、なんとも下品な言葉が飛び交っている。
あまり引き伸ばしすぎると、流石のハーヴェやルヴィーも我慢できずに数名の生徒の首が飛んでしまうかもしれない。
さっさと始めようかな。
「初めの合図は無しだ。戦いによーいどんはないからな!」
「……そうですね」
「え?」
ことは一瞬の出来事である。
そんなふうに息巻いていた彼だったが、次の瞬間、地面の上で横になっていた。
「お昼寝ですか?」と尋ねながら彼を見下ろす。
何が起きたのか分からず、彼はただ唖然としていた。
「おい何やってんだよ!」
「ふざけてんじゃねーぞ」
ヤジが飛ぶ。
今のが分からない。見えないのなら、もうそれ以上上にはいけないだろう。
「一本勝負にしますか?それとも二本?三本」
「っ……バカにしてんじゃねーぞ!このクソアマ!」
叫びながら向かってくる彼の姿は、騎士とは到底いえないものだ。
それこそ、魔物のオークのような感じ。
本当に騎士科の生徒だろうか。そう疑いたくなるほどに、彼は何度も何度も私に向かっては地面に横になる。を繰り返す。
「先輩、本当に騎士科の生徒ですか?流石に弱すぎますよ」
木剣の先で先輩の頬をつっついて煽る。
悔しそうに顔を赤くする先輩。体力は限界だけど、怒りはまだまだ元気のようだ。
「いい加減にしなさい、チルワ。相手が悪いわ。貴方ではこの方に勝てない」
「はぁ?んだと……」
「そういえば、自己紹介がまだでしたね」
にっこりと笑みを浮かべながら、疲れた彼に自己紹介をする。
逆光になってるから、彼にはもしかしたら恐ろしい笑顔に見えたかもしれない。
「魔法科1年、トレーフル・グリーンライトといいます」
「グ、リーン、ライト?」
彼の顔が一気に青ざめる。
周りにいた生徒たちもやっと私の正体に気付いたのか、ざわざわする声の中に「まずい」「やばい」という声がちらほら聞こえる。
「先輩、ダメですよ。世の中、男とか女とか気にしてたら、命なんてあっという間に無くなっちゃいますよ」
もう一度にっこりと笑みを浮かべれば、やがて彼は泡を吹いて失神した。
人の顔見て失神するとか失礼すぎない?
ダウンカルシ先輩は、そのまま部下たちに医務室へと運ばれていった。
試合が終わり、興味本位で来ていた生徒たちはその場を後にした。
しかし、本来私はウエンディー様との試合が目的だった。他の生徒もその試合見たさに来ていたようで、減ったと言っても、そう大した数ではない。
「前座も終わりましたし、手合わせよろしくお願いします。ウエンディー様




