91話:女騎士2
案内された更衣室で、騎士科の訓練用制服に着替える。
軽く体を動かしたりして、動きにくさはないかもしっかりと確認しながら。
シンプルなデザインで、イメージ的には装備をろくに揃えられない冒険者の服装って感じ。まぁそれよりは気品はあるデザインではあるけど。
「トレーフル様、武器はどれにされますか?」
ウエンディー様が更衣室隅のにある、訓練用の木剣を数本手渡してくれた。
大剣のデザインやレイピアのデザイン。一般的な剣の形のものなど多種多様。槍とか盾なんかもあったりする。
でも怪我防止とはいえ、木剣は訓練になるだろうか。すぐ折れて費用コストの方がかかりそうだけど。
私はとりあえず、一番スタンダードな剣を選び、更衣室をでた。
さきほどの訓練所から更衣室まではそれなりに距離がある。
その間、数名の生徒とすれ違うが、何やらヒソヒソと話し声が聞こえる。
「そのような格好でも、やはりトレーフル様は人目を引きますね」
「え、何がですか?」
「貴族としての気品。やはり、血は争えないのでしょうか?」
何を言っているのかよくわからないけど、要は目立ってるってことだよね。
やだなぁ。変に注目浴びたくないんだよ。
「あまり期待しないでくださいね。私は剣術より、魔術の方が得意なので」
「しかし、ご婚約者であるカルシスト様は、いつも口にされてますよ。男であれば、彼女はきっとお爺様に匹敵する剣士になっただろうって」
まさか本人の預かり知らぬところで、そんなハードル上げられているなんて……待て、それってまさか騎士科生徒全員に知れ渡ったりしてないよね……それが本当ならなんて面倒なんだ!
「ご安心ください。ほとんどの生徒が信じていませんよ。騎士科はまだ、男女差別がそれなりにありますから」
「……先輩も、入学当時はありましたか?」
「……えぇ。同学年の騎士科で、女性は私を含めて5人程度です。奨学生である平民はともかく、貴族の令息たちのほとんどは、女性に対する差別が酷いです」
とはいえ、全員がそういうわけではないそうだ。
少なくとも、先ほどの訓練所にいた男子生徒は、才能や好き嫌いに性別は関係ないという考えの生徒ばかりだそうだ。
実際、男性と女性では骨格の作りが違う。力で負けたとしても、それ以外の部分で男性より女性が勝るところは多くある。
実際、へーリオス様にも聞いたけど、冒険者には女性もいるそうで、ゴロゴロ筋肉質の人もいるとか。
なんかイメージしやすいな。
「まっ、もう数年は我慢って感じかな。それに、ウエンディー様が騎士団の制服を着ているところ、私も見たいです」
「……もし、騎士団に入れたら、是非トレーフル様に仕えさせてください」
「あはは、間に合ってます」
「おや、それは残念です」
くすくすとお互いに笑いながら、私たちは訓練所へと戻った。




