9話:精霊姫とのお茶会
ルヴィーと和解した日の夕食時に、私は両親にシルビアとお茶会をしたいと話をした。
とりあえずお友達になりたいからという子供らしい理由でお願いをした。まさかこんな子供が政治というか将来的なことを考えているなんて思ってもないだろう。
ガーデンハルク家にシルビア宛にお茶会の招待状を送って数日、返事が来た。
返事はいいもので、指定した日にちに来てくれるそうだ。
そして今日が、そのお茶会の当日。
「アニー、変じゃない?似合ってる?」
「はい、とても素敵ですよ!」
今日のお茶会にはガーデンハルク夫妻も来られる。でも、私はシルビアと二人でお茶会がしたいから、私たちはお庭で。両親は私たちの姿が見える部屋でお茶会をするということになっている。
「ジルクはどう思う!」
「あ、えっと……自分も、とても素敵だと思います」
彼はジルクニウス・イグニス。
私の護衛騎士である。イグニス家は、カルシスト家の分家に当たる家で、彼とハーヴェははとこ同士である。
イグニス家の三男である彼は、兄たちに比べれば剣術などは劣るが、実際は相当な実力者。跡取りなどのしがらみがないので、私の護衛騎士となっている。
ただこの護衛騎士、実は……
「んー、そう?じゃあ、アニーとだったら?」
「えぇ!?」
「お嬢様、ジルクニウス様をからかってはいけません。それに、どう考えてもお嬢様の方が素敵です」
「そうかな?アニーも素敵よ。ね、ジルク」
「はい!ア、アニー様も素敵です」
「あ、ありがとうございます。はっ!あ、あの!何度ももうしてますがその、様付けはやめてください!私の方が身分が低いのですから」
そう、この男はアニーが好きなのだ。それはもうあからさまなのだけど、当の本人であるアニーは全く気づいてない。
ただまぁアニーの場合は気があるというよりは、今までこんな扱いをされてないから恥ずかしがってる感じかな。
……よし、いつか絶対にこの二人をくっつけよう。手助けするぜ、ジルク。
「あ、来たみたい!」
窓の外、馬車が近づいてくるのが見えた。
いよいよ、悪役令嬢であるシルビアとの対面だ。
イメージは、青みがかった綺麗な銀髪にアクアマリンの瞳。スタイルが良く、可愛いよりも美人って感じ。
でもまだ本編時期じゃないから、イメージよりも幼いか。
「今日はご招待ありがとうございます。王弟陛下」
「嫌味かレグルド。私はもう王族ではなく、お前と同じ公爵だ」
「すまない。久々に会ったものだからついな」
「夫人も、わざわざご足労いただきありがとう。改めて、第二子のご誕生、心よりお祝いを申し上げる」
「ありがとうございます」
大人たちの仲のいい会話。そういえば、シルビアのお父さんとトレーフルのお父さんは友人関係だったな。ルヴィーの父である陛下は彼の先輩にあたるというところか。
ガーデンハルク夫妻は私にも挨拶をしてくださり、習った通りに私も挨拶をする。
「ほらシルビア。お前も挨拶しなさい」
そういって、姿を現した彼女に私はひどく目を奪われた。
イメージ通りの髪色と瞳。だけど、イメージしていたよりも何倍も可愛く、現実離れした容姿だった。
「お初にお目にかかります。シルビア・ガーデンハルクです。本日はお茶会に招待していただき、ありがとうございます」
か……かわいいいいいいいいい!!!
え、なにこの子。この子があの、担当に最悪の悪役令嬢にするように言われていたシルビアなの!?
こんなかわいい子を悪役にしようとするなんて、担当の野郎許さねー!!
「あ、あの……トレーフル様?」
「へ?あぁごめんなさい。今日は来てくれてありがとう。お庭にお菓子をいっぱい用意しているの。行きましょう」
私が手を差し伸べてあげれば、少しおどおどしながらも彼女は私の手に自身の手を置いてくれた。
あぁちっちゃくてかわいい。どれぐらい仲良くなればハグとか許されるかな?早く仲良くなりたいなぁ……
脳内でそんな邪な気持ちを抱きながら、私はシルビアとのお茶会を楽しむ。
「美味しい?」
「あ、はい。とても。」
「シルビアはどのお菓子が好き?チョコ?チーズケーキ?あ、この緑のお菓子はね、東の国の葉っぱを使ってるの苦いけど美味しいよ」
いっぱい話を振るけど、どこか彼女は緊張していた。
動作もどこか慎重で、まるで失敗してはいけないと思いつめているようだった。
「……ご両親に何か言われた?」
「え?」
「粗相をするなとか、なんとか」
「そ、それは……」
図星のようだ。目がすごい泳いでる。
全く、こんないい子にそんなプレッシャーを与えるだなんて、お茶会は楽しいものなのに。
ガーデンハルク公爵にはあとで文句を言わないと!
「気にしなくていいよ。私はシルビア嬢とお友達になりたくて、お茶会に呼んだんだから」
「友達……ですか?」
「うん。私、シルビア嬢と仲良くなりたいな」
仲良くなって、あんなことやこんなことしたいなー。ルヴィーには悪いけど、シルビア嬢は私がいっぱい可愛がってあげるよ。
「どうして……私と友達になりたい、のですか?」
シルビアは嬉しそうにしなかった。むしろ表情が暗くなった。
まぁ、周りにどんな風に言われているか、本人が知らないわけないか……
「噂のこと?」
「……やはりご存知でしたか」
「うん。でも別に、私はそんなことどうでもいいの。それに、その噂のこともなんとなく理由がわかるし」
「え?」
私はアニーたちに少し離れた場所にいるようにお願いした。姿は見える。だけど話し声は聞こえない距離。
「あの、トレーフル様?」
「ねぇシルビア嬢。あなたには、「精霊」が視えるのでしょう?」