89話:騎士科
放課後、私はルヴィーとともに騎士科の塔へとやってきた。
騎士科は実践がメインのため、教室よりも訓練場などの実践を行える施設が多くある。
なので、生徒が空いてるところで好きに武器を振り回すため、特定の生徒がずっと同じ場所にいるということはない。昨日はあそこにいたけど、今日はここって感じ。
騎士科の生徒に聞いて回りながら、私たちはハーヴェを探していた。
というのも、ミセリアのことを話すためだ。
入学初日に関わらないようにという話だったのに、関わってしまったし、その上彼と仲良くなりたいと思ってしまったからだ。
一応ハーヴェのことだから話は聞いてくれるけど、その後「ダメ」っていうかもしれないし。
「いたぞ」
騎士科の南側の野外の訓練室。そこで数名の同じ騎士科の生徒と剣を交えていた。
纏っている衣装は騎士科の制服ではなく、訓練用のものなのか、ずいぶんシンプルな服装だ。
くっ、我が婚約者ながらなんというイケメンオーラだ。
「ハーヴェンク」
ルヴィーが声をかければ、声に気づいたハーヴェがこちらに振り返る。その時ばっちりと目があい、彼の表情がスイッチが切り替わるようにすぐにぱっと明るくなった。
「すごいなあいつ。表情が一瞬で」
「ルヴィーも似たようなもんだよ」
「あれと一緒にするな」
こちらに駆け寄ってきたハーヴェは私を抱きしめようとしたけどすんでのところで止まった。珍しい、お構いなしに抱きつくかと思ったのに。
「どうしたのレーフ。殿下と一緒にこんなところまで来て」
「少し話があるの。今いいかな?」
「うん。すみません、少し抜けます」
「おー」
「それまで休憩してるなー」
敬語。ということは、ハーヴェがさっきまで相手にしてたのって先輩?うへぇ、もう同級生じゃ相手にならないってこと?さすが剣王の孫。
訓練場前の通路の壁に私たちは寄りかかった。
他にも数名が剣の稽古をしており、木剣のぶつかり合う音がなんだかひどく懐かしく感じる。
「それで、二人してどうしたんですか?」
「えっと実は」
私は、ルヴィーに補足してもらいながらことの経緯を話した。
予想通り、ハーヴェは黙って私の話を聞いてくれた。
「ということ、なんだけど」
「なるほど。つまり二人が僕のところに来たのは、その留学生であるミセリア殿下のことを何も知らないで僕の耳に入って、彼を僕が殺さないようにするためってことであってる?」
「まぁそれはもちろんあるけど……一応警戒しないとって話してたのに、関わっちゃったし、なにより……ミセリアと一緒にいて、ハーヴェが傷つかないため、というか」
ハーヴェンクというキャラクターはどんなことよりも、トレーフルを第一に考えるキャラクター。
トレーフルを愛し、トレーフルのためにどんなことでもする。
純愛であっても、狂愛であっても、彼の愛は一途にトレーフルを思ってる。
だから、トレーフルが別の、自分が知らない男と一緒にいるのが耐えられない。
流石にそこまで描こうとはしなかったけど、監禁とか普通にするような性格の予定ではあった。
「はぁ……レーフって、僕のことをわかってるようでわかってないよね」
「え、そうかな?わかってるつもりでだけど……」
「つもりでしょ。はぁ、君にはこれから、もっと僕のことを知ってもらわないとだね」
ムッとした表情を浮かべた後、彼が優しく私の頬に触れる。
久しぶりに感じるハーヴェの感触が、ひどくむず痒い。
「それで、話を聞いてお前はどうだ」
「ダメだと言っても聞くような子じゃないことはわかってます。レーフの好きにするといいよ。けどこれだけは約束して。危ないと思ったらすぐに逃げるか人を頼る。自分でなんとかしようとしないこと」
「それは、大丈夫。必ず、ルヴィーかシルビアの側にはいるから」
「入学二日目でそれは破られたがゴフッ」
余計なことをルヴィーが話そうとしたので、脇腹に思いっきり肘をぶつけてやった。
もう十分怒られたんだから、火に油を注ぐなよ。みろ、ハーヴェの子の笑顔だけど怒ってる顔。シルビアといいしょうぶだぞ。
「はぁ……それでも、絶対に二人がいるわけじゃないでしょ。その時の話」
「……わかってる。その時は、アモル様を頼るよ」
「それならいいよ。一番は関わらないでほしいんだけどね」
それは無理な相談かな。
確かに、彼の留学の理由は気になるけど、それを抜きにして魔法が好きな彼と話をするのはとても楽しい。
それに、彼が今よりも明るくなってたくさんの人と話してるところを私は見たかった。
「失礼します。お話中申し訳ありません。挨拶をしてもよろしいでしょうか」
その時、不意に人が私たちに声をかけてきた。誰だろうと思って振り返ると、そこにはとても美人な女騎士がいた。




