85話:東の王子様1
ひどく長く感じる初日が終わり、食事とお風呂を済ませ、今は椅子に腰掛けてアニーにブラッシングをしてもらってる。
「いかがでしたか?」
「疲れた」
「そうですか。しかし、明日から授業も始まりますし、もっと疲れるのでは?」
「まぁ確かにね」
あの後、ルヴィーに再度確認したけど、やっぱり彼は例の東の国からの留学生だった。まさか初日に会うとはなぁー。
にしても、印象とだいぶ違う。王子っぽくないし、どちらかと言えば平民ぽいっていうか、地味っていうか……ダメだ、どうしても悪口になる。
とにかく、王子には見えない。本当に警戒していいのだろうか。
「アニーは何してたの?」
「はい。シルビア様のメイドさんと、アンジュ様のメイドさんと仲良くなりましたので、片付け後にお話をしていました」
「二人のメイドも、男爵家の令嬢よね」
「はい。とはいえ、うちとは違ってちゃんとお金も実力もあるお家ですけどね」
「どんな話したの」
「えっとですね」
その後、アニーの話を聞いて、私は眠りについた。
本当なら、あのままあの王子様とは関わらずにと思っていたけど、実はそうもいかなかった。
「そうだ、みなさんにお願いしたいことがありまして」
「お願い?」
「はい。今度あるチームでの魔法討伐です」
この学園の魔法科は、最初の授業で生徒の実力を図るために、クラス関係なく6人1チームで編成した魔法使いオンリーのパーティーを作る。
まぁ魔法も使えて、武器も使える生徒は中にもいるけど、その場合は武器に魔法を込める必要がある。
で、アンジュの提案はこの6人。つまり、留学生も含めたメンバーでチームを組まないかということだ。
馬車の中で警戒しようと話していた私やルヴィー、シルビアは少し渋ったが、アンジュがどうしてもとお願いしたので、結果的にこの6人で参加することになった。
「チームプレーも必要だし、結果的に関わらないとだな」
そう思いながら眠りについて翌日。
私は図書館に足を運んだ。
ルヴィーとシルビアの監視を掻い潜り、アンジュたちと同じクラスの生徒にミセリアの居場所を聞き出した。
彼は窓際の席で、分厚い本を何冊も積み重ねて本を読んでいた。
「ミセリア殿下」
「っ!?えぁ、あ、はひっ!」
私が声をかけた瞬間に飛び上がり、彼は変な声をあげた。
オドオドする姿はまるでか弱い子犬のよう。かわいいなぁ。
「昨日はちゃんとご挨拶ができませんでしたね。グリーンライト家長女、トレーフル・グリーンライトです」
「あ、えっと……ミ、セリア……フィデ、ース……です」
「あの、よければ同席してもよろしいですか?」
「あ、その……どうぞ……」
「ありがとうございます」
あわあわしながらも、同席を許可してもらえたので向かい側に腰を下ろした。
彼は恥ずかしいのか、分厚い本で顔を隠しながらもチラチラとこちを見てくる。
なんだろう、すっごくかわいい。いじめたくなるような、甘やかしたいような……なんかくるものがある。
「ん?それは魔導書ですか?」
「あ、はい」
「敬語はおやめください。同い年ですし、何より殿下は王族で、公爵家の私よりも身分は上なので」
「あ、えっと……ごめん。でも、お、俺にも敬語は、いい……あと、殿下も、いらない。そういう、の苦手」
「……わかった。じゃあミセリアと呼び捨てでもよろしいでしょうか?私も、トレーフルとお呼びください」
「う、うん。わかった」
「それで、ミセリアは魔法が好きなの?」
「う、うん。好き」
「じゃあ私と一緒だ」
私がにっこりと笑みを浮かべれば、彼の警戒が少し解けたのか、顔を隠していた本がテーブルに置かれ、髪の隙間から見える目が少しキラキラ輝いているように見えた。
「と、トレーフルも、魔法、好き?」
「うん。色々幅が広がるから。大なり小なり、色々覚えてるよ」
「お、俺も。小さい魔法でも役に立つのいっぱいあるし、面白い」
「ミセリアはどういう魔法が好き?」
「ふ、るい魔法が、好き。でも、古代文字が、読めないから、勉強中。後、龍語も」
「龍語?」
「えっと、ね……俺の国、では、ドラゴンは、知恵の象徴、で……魔法をいっぱい、覚えてるって言われて、るから」
「なるほど。龍語で書かれた魔導書があるってことか」
「う、うん」
よく見たら、積み上がっている本はどれも魔導書。しまも、言語がどれも違う。
さっきの会話から、彼は本当に魔法が好きみたいだ。
同じ魔法好きとしては、警戒せずに仲良くなりたいな。
「ミセリア、もっと魔法のこと話そうよ」
「う、うん。俺も、話したい。こんなに話せる人、国にも、いな、かった」
「そっか。でも今日はこれで帰るよ。こわーい人がこっち睨んでるから」
私が指差す方にミセリアが視線を向けると、小さな悲鳴をあげた。
視線の先、お怒りのルヴィーと頬を膨らませて可愛く怒ってるシルビアの姿がある。あぁ、ルヴィシル今日も仲良し。
「じゃあ、また時間がある時にお話ししよう。じゃあね」
「う、うん。また」




