81話:魔法剣士学園へ入学1
朝は強い方じゃない。
できればいつまでもベットの上にいたいタイプだけど、今日はひどく目が冴えていた。
朝食も不思議と物足りない、苦しい、ということもなく心地よく満たされた感じがする。
空は雲ひとつない青空。気温も暖かくて気分が上がる。
「お嬢様、とてもお似合いですよ」
「そう?ありがとう」
いよいよ今日、私は学園へに入学する。
全寮制のため、休み以外でここに帰ってくることはない。
物自体も、ほとんど部屋に置いていないため必要最小限。というか、多くても私には問題ない。
「すみませんお嬢様、私の荷物まで仕舞っていただいて」
「いいのいいの。こういう時のために、空間魔法覚えたんだから」
長年、剣術と魔法を磨いてきた私。
剣術はいまだに男性陣には勝てない。そのため、魔法でその分を補うために色々な魔法を覚えた。
以前シルビアたちに話した追跡魔法もそのひとつ。
某青いロボットのような収納する魔法道具。魔法鞄は存在するが、それを盗まれたら元も子もない。何か他にいいものはないかと探しているときに、この空間魔法に行き着いた。
術者の好きなときに空間から荷物を出し入れできるので、盗まれる心配もない。
収納する空間は、術者の魔力量に比例するため、私のそれはかなり大きい。
試したことないけど、屋敷とか普通にしまえるのでは?
「アニー、忘れ物とかない?」
「はい、ありません。それにしても、寂しくなりますね」
「そうね。ジルクももう騎士団の方にいってるんでしょ?」
「はい。早い方がいいだろうと、クロヴィス様……イグニス子爵に連れて行かれたそうです」
「そっか。ステルラは?」
「ステルラも、やはり年が同じだからでしょうか、すっかりアルヴィルスと仲良くなってるみたいです」
「そっか。二人とも大丈夫そうでよかった。これなら、安心して学園生活を送れるね。迎えはそろそろでしょ?」
「はい。そろそろ到着するかと……」
ふいに少し激し目の馬の鳴き声が聞こえた。
来たかな。と思っているとメイドの一人が部屋に来て到着を教えてくれた。
「待たせたな」
「うん。待った」
「おい、そこは待ってないというところだろ」
「恋人でもないのにそんなこと言うのはおかしいでしょ?」
目の前で腕を組んでいる彼。学園の魔法科男子制服に身を包んだルヴィーが深々とため息をつく。
なぜ彼が私の屋敷に来たのかと言うと。前日の夕刻、ルヴィーから一通の手紙が届いた。
なんでもシルビアがみんなで学園に行きたいと言っていたそうで、明日迎えにくると言うことだった。
まぁ特に断る理由もないので、急ぎ返事を書いて届けた。ついでと言わんばかりに、ハーヴェも途中で拾ってくると書いてあった。将来、自分の専属騎士になる相手に対してちょっと適当ではないかと思うが、まぁそこは突っ込まないでおこう。
「後ろの馬車は使用人用だ。俺たちは前の馬車だ」
「二人とももう乗ってるの」
「あぁ。と言うかお前、荷物はどうした。手ぶらで行くのか?」
「まさか。アニーの荷物も含め、空間魔法で収納してるの。無くしたら困るでしょ」
「お前……ほんと、幾つ魔法を覚えたんだ?」
「さぁいちいち覚えてないよ。大きいものから小さいものまで覚えてるしね」
「はぁ。本当に、お前を怒らせて敵にさせないようにしないとな」
「怒らせるだけではなく、見限られないようにも気をつけてね」
「肝に銘じておく」
そんな会話をしながら、ルヴィーの手を借りて馬車に乗り込む。
すると、すでにルヴィーに回収された二人が私に笑みを浮かべて挨拶をしてくれた。
「ごきげんよう、トレーフル様」
「ごきげんよう、レーフ」
私と同じ制服を身に纏うシルビアと、騎士科の制服を身に纏うハーヴェ。
うん、二人ともすごく似合ってる。二人のアクスタ欲しいなぁ……
「うれしいです。みなさんと一緒に学園に行けるだなんて。わがままを聞いてくれてありがとうございます、殿下」
「別にいいさ。行き先は皆同じだからな」
「あれ、レーフ荷物は?」
「あぁ、さっきルヴィーにも言ったんだけどね」
馬車の中、私は少しだけドキドキワクワクしていた。
学校なんて何年ぶりだろう。前世と今世を合わせたらもう40は過ぎてしまってるのに、学校に通うなんて変な気分だ。
しかも前世とは全然違う学び。魔法に剣術。一般授業ももちろんあるけど、それでもやっぱり特別な授業はワクワクする。
だけど同時に不安もある。
学園に入学すると言うことは本編が始まる。流石にここまで内容が変わってしまっていては、本編通りにいかないだろう。だからこそ、自分の知らないことが起きて、また何か事件に巻き込まれて、みんなに心配をかけてしまうのではないかと。
「トレーフル様?」
「ん?」
「どうかされました?」
「ううん。ちょっとドキドキしてるだけ」
「眠れなかったのか?遠足前の子供ではないんだぞ」
「ご心配なく。ぐっすり眠れたよ。おかげで肌もいい感じ」
「へぇ。ちょっと触ってもいいかい?」
「おい、急にいちゃつくな!」




