76話:入学準備2
「あ、これ可愛いです」
「本当ですね。可愛いです」
「あぁでも、二色だけだね。三色ないみたい」
今日は、私とシルビア、アンジュの3人でお買い物。
買い物の目的は学園で使用するものを、3人でおそろいにすることだった。
なるべく安価のものにしたいのだが、平民が出入りするようなお店に私たちが行っては目立つし、迷惑がかかってしまうため、少し高めのお店に足を運んでいる。
それに、こういうところにくれば、高くても使い勝手の良い商品は結構あったりする。
例えば、この魔法ペンとか。
「これは三色あるね」
「私、魔法ペンって初めてみました」
「ふふ。アンジュ様、目がキラキラしていますよ」
これは魔力を注ぐことで無限に文字を描くことができる魔道具。
魔力を持つことが前提な上に、素材もそれなりに高価なものだ。
一番安いものでも、平民には手が届かない代物。
何度か、平民でも使えるようにと国の魔道具を作る組織で開発されようとしたけど、どうもうまくいかないらしい。
「黄色に青に緑……うん。それぞれに合うね」
「綺麗ですね。無くさないように気をつけないと」
「じゃあ後で追跡の魔法かけてあげるよ。これで無くしてもすぐ見つかるよ」
「トレーフル様、そんな魔法も使えるんですか?」
どんな魔法でも覚えて損はない。実はこういう魔法が意外なところで使えたりするんだよね。
そういうこともあり、小さなものでも、私は魔法をいろいろ覚えている。
この前は、安眠の魔法を覚えたおかげで、なかなか眠れないという使用人をぐっすり寝かせることができた。
「二人も覚えておいて損はないよ」
「そうですね。大事なものがなくなっても困りますしね」
「今度教えてください!」
その後も必要なものを一緒に買い揃え、一休みで近くのカフェに足を運んだ。
甘いケーキに美味しい紅茶。
歩き疲れた後に摂取する糖分は最高にいいなぁ。
「そういえばトレーフル様。学園に入る前に、一つ作品を出されるそうですね」
「ん?あぁそうだよ。ルヴィーに聞いたの?」
「えぇ。本当に意外な才能だよな。といわれてました」
「作品って・・・もしかして小説ですか?」
「えぇ。息抜きで書いていたものだけど、せっかくならと思ってね」
というのも、書いていたものをうっかりお母様に見つかってしまって、目を輝かせて「続きわ!?」と言われてしまい、結果としてそれなりの長編作品が出来上がってしまった。
話の内容がお母様の心を掴んだようで、また出版することになった。
「まぁ、またトレーフル様の新作が!」
「今回はどんなお話ですか?」
「また恋愛ものよ。お母様、ハラハラドキドキするものがお好きなようで、結構登場人物にとっては苦労しかない話なのよ」
「そうなんですか」
「波のある展開なんですね」
「波が多すぎる気はするけどね」
まぁとはいえ、納得いってない作品というわけではないし、出す分には一向に構わないけどね。売上はお小遣いだと思えばいいし。
「意外といえば、アンジュ様は絵が得意なんですよね」
「あ、はい。得意とはいえませんが、好き、ですね」
「ふふっ、謙遜しなくていいのに。前にアンジュに描いてもらった絵、今でも部屋に飾ってるよ」
アンジュは、前世の時から絵が好きだったらしい。
父親が画家だったらしく、その影響で自分も小さい頃から絵を描いていたらしい。
そして、そんな絵が大好きな女の子は、有名美大の合格発表の日。無事に受かって急いで家に帰ろうとしたその帰り道で、信号無視のトラックに撥ねられてしまったらしい。
絵のうまさは、私の小説を書けることと同じで、前世の影響だろう。
「よければ今度、私にも何か書いてください」
「そ、そんな!私なんかの絵を、シルビア様にお渡しするなんて」
「アンジュ様」
もじもじするアンジュの手を、シルビアがそっとにぎり、にっこりと笑みを浮かべる。
「私たちもうお友達ではないですか。なら、そう畏まらないでください」
「シルビア様……」
くっ・・・目の前で百合が・・・シルアンか・・いいぞ!ルヴィー、私とシルビアもいいけど、この二人の組み合わせも私はいいと思うが・・・今度聞いてみるか。
その後は、もう少しだけ話をして、それぞれ帰路へとついた。
しかし、帰った私の元には王城からの手紙が届いていた。




