71話:成人式4
日が暮れ、暗くなった街の先。
まるで昼のように灯りが灯される王城。
一台、また一台と馬車が止まり、煌びやかな衣装に身を包んだ貴族が、次々と王城へと足を運ぶ。
私たちも、王城の前で馬車を止め、他の貴族たちと同じように中へと足を運ぶ。
「人が多いね」
「成人式だからね。久々のパーティーはどう?」
「今すぐ帰りたい気分ね」
満面の笑みでそういえば、ハーヴェはおかしそうに笑う。
とはいえ、嘘を言ってるわけじゃない。
本当なら参加したくはなかったけど、今日はそう言うわけにもいかない。
「キリク、アンジュ」
多くの貴族がいる中、見知った顔を見かけ、私はハーヴェと共に声をかける。
アンジュから、事前にキリクに相手役に選ばれたと嬉しそうに報告を受けた。まぁ婚約者なのだから当たり前だけど、幸せそうな、初々しい彼女の表情にそんなことを言うのは野暮だと思ってしまった。
「トレーフル様、カルシスト公爵令息様。ご機嫌よう」
「初めまして、ホーリーナイト伯爵令嬢。お話は予々聞いています。よければ、僕のことはトレーフルと同じように名前で呼んでいただけないだろうか。令嬢が良ければ、僕も名前で呼ばせてほしい」
「こ、光栄です!ハーヴェンク様!」
「ありがとう、アンジュ」
思っていたよりも、二人のファーストコンタクトはいいものだ。
アンジュは当然ハーヴェのことを知っていたけど、物語上のハーヴェンクはアンジュよりもどんなに悪役になっても一途にトレーフルのことを愛していたらしい。そしてトレーフルの死後、彼女を悪役にしたルヴィーとアンジュを殺そうとしたが失敗に終わる。そのまま捕まるかと思われたが、そのまま彼は自害したらしい。
トレーフルに対する読者の評判は良くなかったが、ハーヴェの一途な恋心と深い愛に多くの女性読者が彼のファンになったらしい。
まぁ私が書いたわけじゃないけど、評価されているのはよかった。でもハーヴェを殺すことはないと思う!というか、そんな行動させるな!!
内心でそんなことを思いながら、いまだハーヴェに緊張しているアンジュに、私は笑みを浮かべ、優しく頬に触れた。
さすがヒロイン。着飾ると本当に可愛いお姫様のよう。誰も、元平民だなんて思わないでしょう。
「アンジュ、ドレスとても似合ってるわ」
「ありがとうございます。着慣れないので、少しそわそわしてしまいます」
「よくわかる。でも、せっかく綺麗で可愛い格好をしてるのだから、しっかり胸を張って前をむきなさい。あなたには素敵な婚約者がいるのだから」
キリクに視線を向ければ、彼も私を見て笑みを浮かべ、アンジュの手を握った。
うん、仲睦まじそうでよかった。今後、キリアンの恋も楽しみだわ。
「トレーフル様」
その時、見知った声が聞こえて振り返れば、ガーデンベルク公爵の腕を取り、微笑みを浮かべるシルビアの姿があった。
白と青をメインにしたドレス。ところどころには花の形をした布の装飾がたくさんされていて、人目を引くのは胸にある青い鳥のブローチ。
開かれた道を歩く二人は、親子とは思えないほどの美男美女。その証拠に、あたりの男性女性が二人を見つめている。
「ご機嫌よう、ガーデンベルク公爵」
「あぁ。随分と綺麗な令嬢がいると思ったが、トレーフル様でしたか」
「ありがとうございます。公爵も、とても素敵ですよ。シルビアと歩く姿は親子とは思えませんでした」
「揶揄わないでください」
本来なら、シルビアの相手はルヴィーなのだが、この成人式は王族が主催するもののため、ルヴィーも主催側の立場となる。その場合は親族、歳の近い異性がいれば相手役となるが、弟のノアは幼いし、キリクはアンジュと婚約している。そうなってくると、相手役は必然的に父親となる。
なんだか消去法のようで、公爵が可哀想に感じてしまう。
「あ、付けてくださったのですね」
シルビアの視線が私の耳に注がれた。
彼女の耳にも、違う宝石が埋め込まれているが、同じデザインのものがついている。
シルビアが用意してくれたお揃いのイヤリング。
「えぇ。とっても気に入ってる」
「嬉しいです」
「羨ましいです。私も、トレーフル様やシルビア様とお揃いをつけたいです」
「ふふっ。では、学園への入学前に三人でお揃いのものを買いましょう。いかがでしょう、トレーフル様」
「それいいね。消費されなくて、使い勝手がいいものがいいね」
そんな女子トークをしばらくしたあとは、他の貴族たちに挨拶をして回った。
ある令嬢はハーヴェに見惚れ、ある令息は私のことをじっと見てきたりとまぁ大変だった。
あ、そうそう。手紙のやり取りをしていた令嬢たちともお話をした。
みんな、私が声をかけた時とても驚いた上に、泣き出してしまってびっくりしてしまった。
彼女たちとしばし話を終えたあと、ハーヴェと一緒に壁際へと寄った。
人混みから外れたが、それでも令嬢、令息たちが私たちを見つめてくる。
「休まらないな」
「仕方ないよ、レーフが魅力的だから」
「嫌味?」
「まさか。嫉妬してるんだよ」
ハーヴェは私の手を取ると、手袋越しに口付けをし、笑みを浮かべる。
馬車での一件があったから少しはおとなしくなると思ったけど、結局変わった様子はなかった。
「……そうね。まぁお互い様だけど」
「え?それっとレーフも僕に嫉妬してくれたの」
「当たり前でしょ。婚約者が素敵なのは嬉しいけど、でもだからってチヤホヤされるのはあまり好ましくない」
「……そうか……うん」
「ニヤニヤしないで」
照れ隠しで軽く頬を引っ張るがあまり効果はない。それすら可愛いと思っているのか、ハーヴェのニヤニヤは止まらない。




