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70話:成人式3

お互いに視線がぶつかり合う。

ハーヴェの瞳が、じっと私を見つめる。その瞳に反射して、私の顔が見えた。あぁなんて顔をしてるんだ。せっかくのトレーフルの顔が台無しだ。

思わず顔を逸らそうとしたが、それをハーヴァが許さなかった。

彼の手が私の顎に触れて持ち上がる。


「ダメ、目を逸らさないで」

「ハーヴェ……」

「ごめん、まさか君がそんなことを言うなんて思わなかったから戸惑ってる。それと同時に、酷く愛おしくて仕方ない」


優しい笑みが私にむけられる。拒絶じゃない。暖かく、包み込むような笑顔だった。


「あの日、君が連れ去られた日……自分の無力さを知った。どんなに剣の腕を磨き、君より強くても所詮僕は子供だ。君を守るのに限界がある。だから」


ハーヴェはぎゅっと私を抱きしめた。強く、だけど私が苦しまない程度の強さで。


「君を守れる男になりたかった。そのために、今まで君に会いに行っていた時間を削った。会いたい気持ちはあった。だけど、君を守るためだと思って我慢した」


剣の稽古をしたり、勉強を頑張っているのだろうとは思っていたけど、まさかその理由が自分だとは思ってもなかった。

私は、アモル様と契約してるからハーヴェが心配しなくても大丈夫。だけど、私が良くても他の人がそうとは限らない。現に怪我をした時だって周りはひどく心配していた。

アモル様からも自分を過大評価するなと怒られたことを思い出す。


「ハーヴェ……」


自分を特別だと思いすぎている。私もこの世界の一人で、ちょっと魔力が高いだけのただの人間。彼と同じで、他人が傷つくのが嫌で、無力な自分が嫌い。

だから、私のために強くなろうとしてくれているハーヴェがすごく嬉しく、愛おしい。

私は、顔を上げた彼の顔を両手で包み、ゆっくりと唇を重ねた。

そういえば、キスをするのは初めてだったかな?今までの記憶を探しても、こうやって口にキスをするのはやっぱり初めてだ。


「ありがとう、私のために頑張ってくれて……ハーヴェー?」


こっちが今までにないぐらいデレているのに、当の本人は手で顔を覆ってる。

もしかして照れてるのかな?

ふふっ。なんだかハーヴェがこんなふうに照れるの初めて見るかも。優越感。


「全く君は……初めての口付けは僕からしたかったのに」

「別にどっちからでもいいでしょ。それに、今後チャンスはいくらでもあるでしょ?一応婚約者なんだから」

「一応って……僕は君以外と婚約するつもりはないよ」


そう言いながら、ハーヴェは一つの箱を取り出した。

なんだろうと思いながらその箱を見つめていれば、パカっと箱が開かれる。


「これは?」

「僕から君への贈り物だよ」


青と緑の宝石が散りばめられたとても綺麗なネックレス。今日のドレスに合いそうなデザインだった。


「実は、事前に君のドレスのデザインをラルに聞いてたんだ」

「そうなの?」

「あぁ。成人式の日に、僕からの贈り物を身につけて欲しくて。でも、ドレスに合わないものだといけないだろ。だから」


オーダーメイドしたドレスのデザインはシルビアとラルだけに見せていた。

別に写しを渡したわけじゃないのに、よく覚えてたな。


「君が良ければ、僕がつけてもいいだろうか」

「……うん、お願い」


私はハーヴェに背を向けて、ネックレスをつけられるのを待った。

髪は結い上げているから首は晒されている状態。特に苦戦することなく取り付けられるだろう。

メイドたちが選んでくれたネックレスが外れ、ハーヴェがプレゼントしてくれたものが取り付けられる。

見た目に反してかなり軽い。そう言うものなのか、それとも何か魔法がかかっているのだろうか。

そんな風に、ネックレスに意識を向けていたせいで、無防備に晒されている首筋にハーヴェが口付けをしてきた。


「っ!ハーヴェ!」


叱ろうと振り返ろうとしたけどそれより先に彼が後ろから抱きしめた。

さっきと同じように、苦しくない程度の力強いもの。

背中から彼の心音を感じる。わずかに早い心音。肩口から聞こえる少しだけ熱のこもった吐息。それに、思わずドキドキしてしまう。


「お城に着くまで、このままで…お願い」


肯定はしなかったけど、同時に否定もしなかった。

そのあとは本当に、城に着くまでこのままだった。特に会話をすることなく、お互いの体温を感じるだけ。


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