68話:成人式1
日が傾き、梟が鳴く時間帯。
外はすっかり暗くなっているが、私は現在メイド達に手伝ってもらいながら身支度をしている。
普段のドレスとは違う、煌びやかなドレス。
今日は、遂にやってきた成人式。
この成人式を終えて約一ヶ月後、私は物語の本編である魔法剣士学園に入学することになる。
登場するキャラクターは本編とは違うものになっているとはいえ、何が起きるかわからない。気を引き締めて挑まないといけない。
とはいえ、まずは目の前の事をやらなければ。
「お嬢様、とても素敵です」
「そう?変じゃないかな?」
「そんなことありません!とても大人っぽくて、私ではそんなデザイン着こなせません!」
「まさにお嬢様のためのドレスです!」
まぁオーダーメイドだから確かにそうだけど、彼女達がそう言っているのはドレスのデザインがあまり目にしないものだから。
この世界では、スカート部分が膨らんだドレスが多い。しかし、私が今来ているのはマーメードドレスと言われる、膝まで体にフィットされ、裾が人魚の尾ひれのように広がっているデザイン。
布は黒と緑を使用して、刺繍やレースを使用してシンプルだけど綺麗なデザインにしてもらった。
とはいえ、このデザインは露出がかなりすごいのだけど、私はそれが苦手なので、通常露出される部分を刺繍された少し肌が透ける黒い布で覆っている。
ドレスのデザインは小説を書く資料として持っていたのだけど、密かに憧れていた。
前世の私だと体型の問題もあって着こなしが難しいけど、トレーフルのスタイルならバッチリ着こなせると思った。
不意に扉がノックされ、メイドが扉を開ければ、彼女達のとろけるような甘い吐息が漏れる声が聞こえた。
振り返ってみれば、そこには物語に出てくる王子様のようにかっこよく着飾ったアルの姿があった。
「アル」
「姉様、よくお似合いです。まるで月の女神のようです」
「ふふっ。アルも、どこかの物語の王子様のように素敵よ」
私の暗いデザインとは異なり、白を基本とし、所々に差し色に髪と同じ黄緑色が入ったとてもかっこいいデザイン。装飾品も白い布に合わせてシルバーが使われていて、宝石も青や緑などの寒色系が使われている。
入った瞬間、たくさんの女性が釘付けになるでしょうね。まぁその前に釘付けになる女性がいるか。
「そのイヤリングはシルビア様がデザインしたものですよね」
「えぇ。数日前に届いたの」
片側は太陽、もう片側は月のシルバーのイヤリング。サファイアが嵌められているのだが、これはお互いの瞳と同じ色の石が嵌められていて、シルビアの方はアクアマリンが嵌められているらしい。
「お二人は本当に仲がいいですね」
「えぇ。親友だもの、当然よ」
なんて言ったら、ルヴィーがヤキモチ妬きそうね。自分もシルビアとお揃いがいいって。まぁ人前でそんな子供みたいなことは言わないかな。
「トレーフル様、アルヴィス様。ハーヴェンク様とラルエリナ様がご到着されました」
「わかった。すぐに行くわ」
今日の成人式。本来であればアルとラルは来年の成人式に参加するのだが、神獣の加護の件もあり、特別に1年早く参加することになっている。
「それじゃあ、途中までエスコートお願いね」
「光栄です。姉様」




