67話:下準備
あれから数日、無事にアンジュはホーリーナイト伯爵家の養女となり、それから数日後にキリクとアンジュの婚約が成立した。
発表自体はまだされていないが、成人式前には多くの貴族の知るところになるだろう。
元平民ということもあり、マナーや教学をしっかり学ばなくてはいけない。
学園への入学まで時間もないため、ぎゅっと詰め込む形にはなってしまう。
だけど本人はずいぶんやる気に満ちている。
マナー自体は前世で多くの令嬢ものの作品に触れていたこともあり、ぎこちないがそれなりにできている。問題は勉強の方だったため、今はそっちをメインに学んでいるらしい。
ちなみに、そのアンジュの面倒をみているのは、愛してやまない親友のシルビアである。
事情を話せば、
「私でよろしければ、協力させていただきます」
「ありがとうシルビア。持つべきものは未来の王妃様だね」
「いえ、そのようなことは。あの、その代わりというのは何ですが……一つお願いが……」
「ん?なに」
「成人式の時に身につける装飾品を、一つだけお揃いにしていただけないでしょうか」
「え、それは全然構わないよ」
「本当ですか!?」
何だかとっても喜んでるみたいだけど、友達とアクセサリーをお揃いにするなんて何だかとっても嬉しくてドキドキしてしまうな。
デザインはシルビアにお任せをした。装飾品のデザインは得意ではないし。
「さて、感想を聞かせてもらっていいかな」
そして本日、私の屋敷にはキリクとアンジュが訪問している。
キリクは相変わらずだが、アンジュはシルビアの指導のおかげか、ずいぶん令嬢らしくなっていた。さすがわシルビア。
訪問とは言ったけど、まぁ私が呼んだんですけどね。
先日、無事に二人の物語が完成し、内容の確認をしてもらった。そして、今日はその感想を聞くため。直して欲しいところがあれば修正をして、再度確認をしてもらって本として出版する予定だ。
ちなみに出版先はお母様に紹介をしていただいた。
「自分の方は特に問題ありません。ただ、読んでいて少し恥ずかしくなってしまいました」
「私も問題ありません。あぁ、自分の事とはいえ、こんな形でトレーフル様の小説をまた読めるなんて」
元々私のファンであるアンジュは歓喜に天を仰いでいたけど、まぁオタクってそんなもんだよね。
とにかく問題なさそうなので、アニーに小説を届けるようにお願いした。
向かい側、婚約したということでとても仲睦まじい二人。不思議とその光景を少し羨ましいと思ってしまった。
ここしばらくハーヴェとは会えていない。
私から会いに行こうかとも思ったけど、彼からこないということはきっと忙しいんだろうと思い足が進まない。
彼は今、何をしているんだろう。
「トレーフル様?」
「ん?」
「どうかされましたか?浮かない顔をされているようですが」
「ううん、何でもないわ」
結局ハーヴェとは、成人式当日まで顔を合わせることはなかった。




