59話:ヒロインの選択
街から屋敷に無事戻ってきた私たちは、すぐにお父様に事情を話した。
もちろん、彼女が転生者というのは内緒で。あくまでも白魔法が使えるということだけ。
魔法のことを教えるという名目で、私と同じ部屋にしてもらい、私はさっそくと今までのことを話した。
「いやーホントあの時は大変だった」
「凄いですね……なんというか、現実味がないです」
話す上で、お互いの呼び方を決めようとしう話があった。
彼女はずっと私のことを先生と呼んでいたけど、いまの私は先生でも何でもない。なので、名前で呼ぶようにお願いした。
彼女は私をトレーフル様と呼び、私は彼女をアンジュと呼ぶ事にした。
「じゃあ、シルビア様とルーヴィフィルド様は仲がいいんですね」
「そう。それはもうラブラブというか、ルヴィーはシルビアをそれは溺愛してるよ」
「本編だと、ルーヴィフィルド様は毛嫌いしていたのに……」
「元々、シルビアが精霊を視ることが知られていない上に、同い年で自分よりも優秀なシルビアに嫉妬もしていたからね」
その二人だけではなく、アルとラルの関係。一応私とハーヴェの関係も話した。
みんな婚約者同士仲が良く、本編のようなことになることはまずない。
「そう、何ですね」
「とは言っても、それでも不安なら無理に本編通り伯爵の養子にならなくてもいいんだよ」
「確かに、いまの話を聞く限り問題はなさそうです。それに、私自身も貴族になることは問題ないんです」
どういうことだろうと思い、彼女に尋ねれば、少しもじもじしながら、顔を赤くしながら話してくれた。
幼い頃、まだ前世の記憶を取り戻す前。街で身なりのいい男の子を助けたことがあったそうだ。
たった一言「ありがとう」と言われただけだったのに、胸が酷く締め疲れらるほどだったと。
つまり、彼女はその男の子に恋をしたそうだ。
「その子は貴族なの?」
「多分、そうだと思います……とはいえ、もう会うこともないので、何ともいえないですが」
過去に、似たような会話を思い出す。
やっぱりそうかと思い、思わず笑ってしまった。
「貴族になれば、その子に会えるかもって思ったの?」
「はい。でもやっぱり、少し怖いです」
「……貴族になった際のことは心配しなくていいよ。その時は、私がサポートしてあげる」
「え、トレーフル様がですか?」
「えぇ。私だけじゃない。事情を話せばシルビアも手伝ってくれると思うし」
「……それは、何というか……恐れ多いですね」
まぁそう思うのも無理はない。
次期王妃と、王弟の娘だからね。私がアンジュの立場でも同じように思ったと思う。
「折角だし、今度は貴女のお話を聞かせて。今世でも、前世の話でもいいから」
「あ、はい。えっと、自分は……」
それから、夕食の時間になるまで私たちは話を続けた。
食事を済ませた後は一緒にお風呂に入り、一緒のベッドに横になった。
「……トレーフル様、起きてらっしゃいますか?」
「うん、起きてるよ」
「……私、本編通り進もうと思います」
「どうして?」
「不安はあります。でも、平民のままだとトレーフル様との縁が切れてしまいそうで。あっ、下心とかではなく、純粋に同じ転生者の人が近くにいるという安心感です」
「そう……でも、貴族になるということは、結構勇気がいるよ。たまたま私はいい人間だけど、ほかの貴族はそうじゃないから」
「はい。平民が貴族になるってそういうことですから。本で良くありますし」
小声で、お互いにクスクスと笑う。
実際、本編でもアンジュは元平民ということで学園で虐められる。
これは、どうあがいても避けることは難しい。私はそれをなるべく抑えれるように、行動しなければならない。
「トレーフル様にお会いできてよかったです。私は、とても運のいい転生をすることができました」
「……明日はお昼から教会に向かうから。午前中はお客さんがくるから、すぐにとはいかないけど」
「わかりました」
しばらくすれば、彼女が寝息をたて始める。
見た目は同い年だけど、精神は私よりもずっと下の子供。それでも、成人まじかではあるから、私が心配するほどでもないけど、やれることはやりたい。
「物語も、もう目の前か……」




