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54話:nothing day

この日は本当になんでもない日だった。

誰かが招待したわけじゃない。

誰かが誘ったわけじゃない。

だけど、自然と聞きつけたみんなが揃って屋敷に足を運んだのだ。


「レーフ姉様。良かったですぅ!」

「もう泣かないでラル。大丈夫だから」


泣きじゃくりながら私を抱きしめるラル。ラルだけじゃなく、声はあげないけど私の背後から抱きしめるように泣いているルヴィー。

そう、ルヴィーの誕生日会に集まっていた面々が、みんな揃ってうちに集まったのだ。

少し離れたところには、シルビアとハーヴェ、キリクの姿もある


「心配かけてごめん。もう平気だから」


アルと再会した後、そばにいた使用人の一人が両親に報告したようで、すぐに駆けつけてくださった。

当然怒られたけど、同じぐらい心配され、泣かれてしまった。

その翌日、各関係者に手紙を送って私の無事を知らせたらしい。それで今、こうやって集まっているということだ。


「みなさん、お茶会の準備ができました」


せっかく集まったからと、アニーが他の使用人たちとお茶会の準備をしてくれた。

気を遣わせてしまって申し訳ない。

席に着くが、私の両サイドはラルとシルビアが陣取った。ハーヴェは出遅れてしまったようだけど、私の向かい側に腰をおろした。


「ラル、聞いたよ。私を探すの手伝ってくれたんでしょ?」

「……はい。お役に立てると思ったので!」


両親が各関係者に手紙を送る前、あの事件について色々と話を聞いた。

私たちが連れ去られて捜索を開始されたが、連れ去られた黒紫の森はその環境から無闇に捜索することができなかった。

頭を抱えている時ラルが城に戻り自分の目を使って欲しいと進言して来たそうだ。

ロワヨテ様にもらった加護、千里眼を使えば森の外から捜索することができる。だが、目は長時間使うことができない。それにラリは幼い子供だ。体に負担がかかるのは目に見えていた。

大人たちは断ろうと思ったが、ラルは泣きながら協力させて欲しいとお願いをした。

結果、協力をしてもらうことにはなったが、目の負担も考え、ある程度目星をつけてそこを確認してもらったとのことだ。


「本当にお前は面倒ごとに巻き込まれるな」

「いやー、本当に」

「でも、驚きました。まさか、トレーフル様が神獣様と契約をされ、アルヴィルス様とラルエリナ様は加護を。シルビアは、精霊が見えていたなんて」


この中で、唯一キリクだけが私たちの事情を知らなかった。

今回、あの場にいたことで彼にも事情を話すこととなり、当然成人式までは口外しないことをお願いした。


「成人式までは口外しないようにって言われてるからね」

「ごめんね、キリク」

「いえ、寧ろ良かったと思いました」

「良かった?」

「シルビアの噂のことは、自分の耳にも入っていたので」


従弟とはいえそう頻繁に交流があったわけではない。

ガーデンベルク公爵家とプラテリア辺境伯家では、かなりの距離がある。気軽にこちらにこれるものではない。だから、噂が事実か確認する手段もない。


「シルビアが優秀なのは自分も知っていたので、少し心配だったんです。努力家ではありますが、それに比例して自分への評価が低いので」

「それはすごくわかる」


こんなにも可愛くて、作法も完璧。魔力も高いのに、この子は自信がまったくなかった。

まぁ今では昔のことのようだけど。


「でも今は……いえ久しぶりに顔を見たお茶会の時からですね。随分と見違えました。これも、トレーフル様のおかげかと」

「私は何もしてないわ」


そう、私は何もしてない。今こうやって自信をつけているのはシルビア自身が一歩、勇気を出して踏み出した結果だ。

私はその手助けをしただけ。


「何もしてないはないだろ。俺とシルビアの間を取り持ったのもお前だ。俺とシルビアにとっては、お前という存在はとても大きいものなんだぞ」


ルヴィーの意外な発言に私は少し驚いた。

二人っきりや、シルビアを交えて3人の時によくそういう発言をするけど、まさかこんな場でそんなことをいうとは思っていなかった。

なんというか、ちょっと恥ずかしい。

でも……


「そんな大したことはしてないよ。私は、私のわがままのためにやってるだけ」


そう。ここは私が書いていた小説。全員を幸せにしてあげることができなかった。だから、生まれ変わったからにはみんなを幸せにしてあげたい。

私はそのために動いてるだけで、二人に感謝されるようなことではない。


「そのわがままのおかげで、誤解せずに俺はシルビアを知ることができた」

「私もです。トレーフル様がいらっしゃったから、殿下と仲良くなれました」


純粋な感謝。その眼差しが私には眩しく、そして受け止めきれないほどに暖かなもので、思わず俯いてしまった。


「照れてるのかい?」


向かい側に座るハーヴェがそう尋ねる。声音が優しく、きっと笑いながらそう言っているのだろう。


「別に、照れてなんてない……」


私が生んだ私の子供。今の私にとっては大事な友人たち。

まだ本編は先だけど、きっと全員を幸せにして見せる。


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