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51話:神の水場(シルビア視点)

「え……ここ、どこ?」


トレーフル様に抱きしめられたかと思ったら、次の瞬間知らない場所にいた。

明るい森の中。鳥の鳴き声や水の流れる音が聞こえる。

さっきの騒ぎが嘘のように、穏やかな場所だった。


「ぁ……」

「っ!トレーフル様」


そうだ。あの怖い大人の人にトレーフル様はいっぱい刺されて、いっぱい血が出て……。


「トレーフル様!トレーフル様!」


嫌だ。このままトレーフルが死んじゃうの。嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!

お願いします神様!トレーフル様を!


「騒ぐな人の子よ。トレーフルは死なん」


目の前に、白くて大きな手が出てきた。その手は、優しくトレーフル様を持ち上げるとどこかに連れていく。

行く先を見て、初めてそばにその人がいたことに気づいた。


「全く、すぐに呼べといったのに……」

「……もしかして、アモル様、ですか?」


神獣の一体であるホワイトドラゴン。トレーフル様の友人である、アモル様。

ということは、ここは神獣様が暮らしている世界ということ?

でも確か、普通は眠ってしまうのでは……


「やはり、主は眠らんかったな」

「ど、どうしてでしょうか?」

「主は、精霊を視覚できる。それは、我々の友だからではなく、神直々に与えられたもの。従って、主もまた特別である」


アモル様も確信はなかったとのことだったけど、結果的に私は眠ることなくここにいる。


「……あの、アモル様。私をここに連れてくるように言ったのはアモル様ですか?」

「……賭けではあったがな。もし主が眠らなかったら、言伝を頼もうと思ってな」

「言伝……お使いですか?」

「そのようなものだ。あちらに戻ったら伝えろ。トレーフルはしばらく預かると」

「トレーフル様を、ですか?」


詳しい事情を聞かせてもらい、私は納得した。

トレーフル様はまさに生と死を彷徨ってる状態。いつ死んでもおかしくない状態だった。

私たちの方で治療して助かるかわからない。だけど神獣様たちが暮らすこちらには、傷を癒す泉があるそうだ。

確か、書物にあった。【神の水場】。所謂、神様のお風呂。

そこには、特別な力があるそうで、しばらく浸かっていれば傷も癒えると。


「わかりました!お父様や、国王様にお伝えします!」

「頼んだぞ」

「はい!トレーフル様をお願いいたします!」


返事をした後、アモル様はじっと私の顔を見つめてくる。

顔に何かついてるのかな?


「近いうちに、主にはトレーフルを通じてもう一度こちらに来てもらうことになるだろう」

「え?どうしてですか?」

「一匹、主に会いたいという神獣がいるのだ。昔、世話になったそうでな」


私に、神獣の知り合いが?全くと言っていいほど記憶にない。

でも、神獣様は私より長生き。私の10年は、神獣様にとっては昨日のことなのだろう。


「わかりました」


私はぐったりとしているトレーフル様を見つめる。

きっと、トレーフル様は最初からこれを想定されていたのだろう。

同じ年なのに、まだまだ私は貴女の背中を見てばかりです。


「しばらくお別れです、トレーフル様」


私は、アモル様が開けてくださった空間を潜り、元の場所に戻ってきた。

ボロボロの教会。騎士たちに捕まっているたくさんの悪い大人の人たち。

時間はそんなに経っていないかもしれない。


「シルビア様!」


勢いよく肩を掴まれて相手の顔を見た。

わずかに涙目で、不安げな表情をする白い猫の獣人の男の人。

先日、トレーフル様が助けた人だとわかったけど、あの時と随分印象が違う。確か名前は……


「ステルラ、でしたよね?」

「っ!はい。申し訳ありません、私のようなものがシルビア様の肩を掴むなど」


跪いて謝罪する彼に、私は別に怒っているわけではないことを説明する。

確かに驚いたけど、彼はきっとトレーフル様の安否が心配で、無我夢中だったのだろう。

トレーフル様と一緒に消えたはずの私が戻ってきて、彼女だけが戻ってこなかったから。


「それで、トレーフル様は……?」

「……トレーフル様はしばらくお戻りになりません。療養のため、神獣様たちの方で見てくださるそうです」


私たちでは、彼女を助けられないので。

そう言葉を続けようとしたけど、それは心の中で呟いた。

私の説明に、彼は「そう、ですか……」とどこか張り詰めていたものが切れたように、体から力が抜けたようだった。

どれぐらいの期間、トレーフル様があちらにいるかわからない。

こちらと彼方では時間の流れが違うと聞くから、あっちでの数日はこっちでは1年だったりするかもしれない。


「戻りましょう、ステルラ。陛下とお父様たちに説明しなくては。国に帰るまで、トレーフル様の代わりに護衛をしていただけないでしょうか」


そっと私が手を伸ばせば、彼はしばらく私を見つめた後に返事をして、私の手を取ってくれた。


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