49話:死を望み、天使に救いを求める者ら3
儀式というから地下を想像していたのに、そこはまさに教会だった。
目の前には大きなステンドグラス。
置かれている椅子には、この頭のおかしい宗教の信仰者なのか、多くの人が腰を下ろしている。
そして明らかにひときわ目立つ祭壇の上、この死の森には似つかわしくない鮮やかな花々に囲まれたそこにシルビアが横たわっている。
「シルビア!」
「ご安心ください。眠っておられるだけです」
鎖を引っ張られ、私はシルビアの側まで連れてこられた。
真っ白なドレスに身を包んだ彼女は、幼いながらもこれから結婚をする花嫁のようだった。
わずかに聞こえる寝息に、こわばった体から力が抜ける。
大丈夫……まだ、大丈夫。
「さぁ!死を求める、リネア様を崇める信仰者よ!これより儀式を行い、この地にリネア様を降臨させます!」
騒がしい歓喜の声ではない。感動の、心からの喜び。
あぁ、幸せそうな表情をしているけど、ここにいる人全員、死を望んでいるんだよね。
しかも、自分で死ねないから天使に死を捧げるなんて言葉で、他人に殺させるなんて……やっぱり、ここには頭のおかしな連中しかいないんだ。
「それでは、生贄を依り代の上に」
そう指示をされ、他の神官が私を抱きかかえてシルビアの上に載せる。
その図は、まるで私がシルビアを押し倒しているようだった。
あぁシルビア綺麗だな……そういえば、もしかしてこうやって押し倒してるのって私が初めてだったり?
ルヴィーにはまだこんなことする度胸もないだろうしそうだよね。
寝てるし、このままキスしてもいいかな?いや、だってこんな美少女が目の前で無防備に寝てるんだよ?したくもなるでしょうよそんな。
「んっ……」
そんなことを考えていると、ゆっくりとシルビアの目が開いていき、美しいアクアマリンの瞳が私を見つめる。
「トレーフル、様?」
「おはよう、シルビア」
にっこりと笑みを浮かべ、私はそのままシルビアを少しだけ強く抱きしめた。
「シルビア、何があっても大声をあげないで」
「え?」
「騒ぐのもダメ。泣くのもなるべく抑えて」
「トレーフル様?」
「ごめんね。私が、力を隠さないとって……そんなこと考えなければシルビアをこんなところに連れてこなくて済んだのに」
ロザリーが高らかに演説している。
どうやら、私の体に剣を突き刺して、流れた血を使って天使を降臨させるらしい。
「でも大丈夫。しばらくお別れになるけど、すぐに戻ってくるから」
「トレーフル様……」
「シルビア……あなたをこんなところで死なせたりしない。貴女の幸せが、私の願いなんだから」
その瞬間、背中に激しい痛みを感じた。
儀式を始めるための下準備が始まった。
悲鳴をあげないために、私は唇に歯をたてた。痛いのはどうすることもできなから、涙はドロドロと流れる。
何度も何度も背中を刺された。
ダメだって言ったのに、シルビアが悲鳴混じりに私の名前を何度も呼ぶ。
まだダメ……もう少し、もう少し……
「……ア」
痛みに耐えながら息を吸い、口を開こうとした。
その時、激しい音共に大きなステンドグラスが砕け散った。
横目で視線を向ければ、黒い服に身を包んだ男の子がいた。
知ってる顔だ。金色の瞳、白い髪……それだけ聞けば、例の天使かと思われるかもしれないけど、ゆっくりと脱げていくフードの下からは可愛らしい猫耳が顔を出した。




