48話:死を望み、天使に救いを求める者ら2
ロザリーが口にした天使の名前。
小さな頃に読んだ絵本の天使の名前だった。
確か、悪魔に魅入られ死を愛した天使の話。
マジか、あれフィクションじゃないの!?
「信仰者は天使に死を求めて、我々神官が天使に死を捧げる。すると、リネア様はその死を受け入れてくださり、信仰者は安らかに天へと召されるのです」
どう考えても狂った宗教以外のなにものでもない。
そして、そんな狂っら連中に連れ去られてその天使の生贄と依り代にされる。
待遇からして、私が生贄でシルビアが依り代ってところか。
「本当に天使がこの地に降臨するんですか?何か成功例でも?」
「残念ながらこればかりは試行錯誤です。今まで色々試しましたが、どれも失敗で……しかし、今回は必ず成功するはずです!」
「何を根拠に……」
ロザリーは高々に語る。まるで、舞台でオーバーに演説するように。
古来より天使は幼い姿。だから、依り代は幼い子供。
天使は悪魔と対になる、純粋な存在。つまり、汚れなき白。だから、髪も肌も白に近い方がいい。
そして、人間とは異なる存在。圧倒的な力。つまり、高い魔力を持っている。
「まぁこの条件で前回は失敗に終わりました。何がいけなかったのか考えた結果、次は貴族の子供で試そうということになったんです」
「それでシルビアに……」
「はい。欲を言えば、瞳はルビーのような赤い瞳か、ルチルのような金の瞳がよかったですが、そこは後からどうにでもできます」
やっと崇め、求めた存在に会えると嬉しそうにするロザリー。他の神官たちも同様だった。
「依り代については理解した。けど、生贄が私であった理由は何?」
「トレーフル様は、見た目に反して大人びてますね。それに随分と賢いです。先ほども申し上げたように、天使様は高い魔力を持っています。シルビア様も十分魔力はありますが、足りない恐れもありますので」
つまり自分は足りない分を補充するための生贄というわけだ。
なんとも胸糞悪い話だ。
「さて、それでは少し急いで儀式を行いましょうか」
牢屋が開き、神官が私の拘束具に繋がれている鎖を握った。
とりあえずは、ここから出れるようだ。
とは言っても、連れていかれる姿は罪人のそれだ。いい気分ではない。
どうする?神官相手なら簡単に倒せる。シルビアを今人質に取られているわけでもないし。
「変なことは考えないでくださいね。幼いとはいえ、トレーフル様の実力は存じ上げてます。もし我々に抵抗すれば、シルビア様がどうなるか」
「……大事な依り代なのに殺すの?」
「惜しいとは思いますが、その死もまたリネア様が愛し、受け止めてくださります」
何を言ってもこの頭のおかしい連中はどうしようもないようだ。
私だってシルビアを死なせたくない。
—— アモル様、よろしいですか
そして、私は儀式が行われる場所へと足を運んだ。




