42話:うん。やっぱり美少年
屋敷に戻ったあと、ステルラのことはアニーに任せて、私はお父様に街でのことを話した。
話を聞いたお父様は、前々から隠れて多種族を誘拐して貴族に売ったりしている噂があったこと話してくださった。
今まではあくまで噂で確かな証拠がなかったけど、今回のことで動けるかもしれないと言われていた。
そのことについてはお父様に任せるとして、今後連れてきたステルラをどうするか話すことにした。
「側に置くのか?」
「私が連れてきましたので。とりあえず従者としても置くつもりですが、せっかくなら私専属の情報収集係にしようかと」
私の側には今、お父様お抱えの情報部隊の隊員が数名いる。
必要な情報が欲しい時は、彼らにお願いして集めてもらっているけど、あくまでお父様の部隊をお借りしているに過ぎない。
私専属で、情報を集めてくれる子が欲しいと思っていたのは事実だ。
「確かに、あの者は獣人だから身のこなしもいいはずだ。それに、猫族となれば隠密にはうってつけだな」
「もちろん、これはあくまで私の希望です。本人が望んでいなければ、私は従者の仕事だけを与えるつもりです」
それも断ったら屋敷を出すしかないかな。まぁ流石にないとは思うけど。
「私は文句を言うつもりはないが、何かあればすべての責任はお前に返って来る。子供とはいえ、わかるな」
「はい。わかった上で連れてきましたから。それでは、私はこれで失礼します」
私はジルクを連れて部屋に戻ることにした。
アニーには、ステルラを綺麗にしたら部屋に連れて来るようにお願いしたから、もういるだろうと思った。
私はいつも通り部屋に戻る。扉を開いた先、窓辺にいた彼が振り返って私を見た。
汚れが綺麗にとれて服装もきっちりとしたものになったことで、さっきとは違い、品のある見た目になった。
うん、やっぱり美少年だ。
「化けるもんだな……」
「どうですかお嬢様」
「さすがアニー、完璧だわ」
「あ、あの……」
もじもじするステルラ。ショタみが強いのでそんなことされたら可愛くて仕方がない。
「うん。今の見た目なら私の側に置くには問題ないね。とりあえず座って。色々と説明しないといけないから」
「あ、はい!」
少し緊張した様子のステルラ。体が機械のようにぎこちなくて、その様子がなんだか可愛くて思わず笑ってしまう。
席に座ったステルラに、私は彼の今後の話をした。
私の従者として側に置く。同時に、情報収集係としても働いて欲しいとも。
話終えた後、少しはためらうと思ったけど、案外あっさりと了承してくれた。
「助けていただいた恩を返せるのであれば。それに、今の私には元いた場所に帰ることはできません。なので、しっかりと働かせていただきます」
言葉遣いがしっかりしてる。アニーが教えたのかな。
平民でも、目の前に目上の者が現れても敬語はぎこちなくなる。
だけど彼はそういったものが全くない。まるで、最初からそういう身分でしっかりとした教育を受けているようだった。
「……誤解しないで欲しいのは、人間はみんな同じじゃないの。私はあの男たちのようにはしない。それは約束する」
「ありがとうございます、トレーフル様」
「んー、でも獣人ってだけでも色々と周りの目もあるな……私の従者になるからそれなりに立場はあったほうがいいかな」
これはお父様に相談してないけど、まぁ事後報告になってもいいかな。私に任せるって言ったし。
「アニー」
「はい、お嬢様」
「あなたのお父様、ダグネスク男爵は獣人に偏見がある?」
「いえ。両親も兄弟も、偏見はありません」
「なら、私が支援するからといえば、彼を養子として迎えてくれるかしら」
「え?」
「はい。しかし、グリーンライト家から支援があるからと言われなくても、父は受け入れてくれるかと思います」
「そっか、それは良かった。じゃあすぐに手続きをしましょう」
「かしこまりました」
「あ、あの」
この場で、唯一状況がわかってないステルラはあたふたと戸惑っていた。
そんな彼に、私はにっこりと笑みを浮かべて口にする。
「貴方をここにいるアニーの実家。ダグネスク男爵家の養子にしようと思うの」
「ぼ、僕がですか!?」
「えぇ。いやかしら?」
「いえ……でも自分は獣人で」
「問題ないわ。貴方は私の従者なのでから、種族なんて関係ない。家柄はね、貴方を守るための武器なのよ。ただの獣人じゃない。貴方は貴族の身分を持つ獣人なの」
グッと唇を噛み締めるステルラは、わずかに頭を下げて私にお礼を言った。
獣人とはいえ、そこらへんのゴロツキや、性格の悪い貴族よりも礼儀正しいいい子だ。
「さぁステルラ、これから忙しくなるわよ。覚えることはいっぱいあるんだから」
「……頑張ります!」




