41話:曲がり角の出会い
「はぁ、いい買い物をしたね」
それは、屋敷に戻る数時間前の出来事。
え、前回ラッピングするところで終わったのに同日かって?
いやまぁそれはあの話を一旦終えるためであって、その日別の事件というか出会いがあったんですよ。
まぁ聞きなさいな。
プレゼントの材料を無事に買い終えた私たちは護衛に守られながら、街の中を歩いていた。
「申し訳ありません。馬車を止めることができず、みなさんを歩かせてしまって」
「いいのよ、気にしないで」
「たまにはこうやって歩きながら街を見るのもいいですよね」
「はい。街の暮らしとか見れてとても楽しいです」
服装も地味目にしてるとはいえ、ほかの人に比べたら派手な部類に入る。しかも、それなりの数の護衛もいる。私たちがいいところの子供だってことは一目でわかるけど、まぁ捕まえてびっくり。ただの子供ではなかった!なんて展開が発生する可能性もあったりする。
「帰ったら早速作ろうかな」
「私も頑張って刺繍します」
「私もです」
なんて、楽しくお話をしてる時だった。ちょうど真横の路地から人が飛び出てきて私とぶつかった。
「わっ!」
「おっと」
私はなんとか立っていたけど、ぶつかった相手は尻餅をついてしまった。
騎士達はすぐにその人物を警戒し、私たちを守るように囲い、剣を抜こうとする。だけど、私はそれを止めた。
「貴方、大丈夫?」
「お嬢様いけません、下がってください!」
下がる?そんなことできるはずもない。だって目の前にいるのは、とても顔のいい猫耳尻尾を生やした男の子なのだもの。
白い髪に同じ色の尻尾と耳。そして、黄金のように美しい金色の瞳。
服装や顔に汚れがついたりとボロボロだけど、容姿の美しさに目を奪われてしまう。
「怪我はない」
「は、はい……す、すみません」
随分と怯えている。ただの人見知りって感じでもない。
こういうタイプは、誰かに力で強く屈服させられている証拠だ。現に……
「やっと追いついたぞ」
「手間とらせやがって」
彼が走ってきた道から、遅れて数名の男達がやってきた。
その男達を見て、彼はひどく怯えていた。
「貴方達はこの子のなんですか?」
「あぁ?なんだガキ」
「このっ!」
ジルクが今にも声を荒げて飛びかかりそうにしていたけど、私はそれを制止する。
ここは人目も多い。あまりことを大きくするのは得策ではない。とはいえ、このままにしておくわけにはいかない。
「もう一度聞きます。貴方達はこの子のなんですか?」
「ガキには関係ないだろ。そいつを渡せ」
「そういうわけにはいきません。大体、なぜこの国にこんな歳の獣人がいるんですか?」
平民の子供でも知ってる事実だ。
獣人は人間嫌いで有名で、人間が住んでいるところに寄り付かない。
それに、人間よりも身体能力が高いため並の人間でも歯が立たないと授業で習った。だというのに、この国に獣人がいる。しかもこんなにも幼い子供の。
可能性として考えられるのは。
「攫ったのですか、獣人の子供を」
「うるせぇ!いいからさっさと渡せ」
否定せずに怒鳴るだけ。これは、国にとっても大きな問題だ。野放しにはできない。
「ジルク!」
「はっ!」
ジルクをはじめ、護衛の数名で男達を捉えた。
当然、街のゴロツキとしっかり鍛えられた騎士では実力に差がある。あっという間に男達は捉えられてしまった。
「如何なさいますか?」
「私では何もできないから、お父様に相談しましょう。とりあえず街の兵士に彼らを連行させて」
「かしこまりました」
数時間後、警備兵達に男達を引き渡し、しばらく地下牢に入れておくように頼んだ。
屋敷に帰ったらお父様に事情を話して、あとは任せようと思う。
「とんでもないことに遭遇しましたね」
「こんな小説みたいな展開になるなんて」
全くだ。前世でもこんなこと夢物語だと思っていたのに。
さて、あっちはいいとしてこっちをどうしたものか。
男達に声をかけてからしばらくして、この猫さんはずっと私にひっついてる。歳は同じか一つ下ぐらいかな?あぁそれにしても本当に可愛いな……。
「貴方、行くところは?」
私がそう尋ねれば、猫さんは首を降る。
行くところはないらしい。まぁ攫われてしまったのだから、帰ろうにも難しいか。
「じゃあ私のところに来る?」
「トレーフル様!?」
「よろしいのですか?」
「行くところがないし。それに、こうなったのも私の責任だからね」
「いいん、ですか?」
くりっと大きな瞳が不安げに私のことを見てくる。
ひゃー。可愛い。
「うん。とりあえず綺麗にしないとね」
私は彼の手をぎゅっと握って、引っ張るように歩き出す。
後ろで令嬢二人が不服そうにしてるのに気がつかずに。
「そういえば、貴方お名前は?」
「……名前は……ステルラ」
「ステルラね、いい名前」
私はステルラの手を引いて、馬車のある場所まで歩いた。
あ、お腹減ってるみたいだったから、途中で屋台もよった。
貴族はこういった食べ物を食べないから、ラルやシルビアも物珍しそうにしながら食べていて、ちょっと笑っちゃった。




