39話:少女でも女1
「この糸いいかも」
「レーフ姉様。お兄様にはどちらがよろしいでしょうか?」
「んー、やっぱりルヴィー様はこちらの方が……」
あれからしばらくして、私たち3人は少数精鋭(約5人)の護衛とともに貴族御用達の雑貨屋へと足を運んでいた。
魔晶石のお守りは、結果としてアル、ルヴィー、シルビア、ハーヴェ、ラルに渡すことにした。
そして、肝心のルヴィーの特別プレゼントは、私の魔晶石を埋め込んだ短剣にすることにした。
今、剣の方はお父様に頼んで作ってもらい、完成したら一緒に行って最後に少し大き目の魔晶石を埋め込む予定だ。
短剣は身を守る道具の一つで、小さいから体に隠すことができる。お守りといえば、同じ役割だろう。
「トレーフル様、いっぱい買いますね」
「うん。みんなの分作りたくてね。それぞれの髪色と目の色の糸編み込んで、石をつけようと思うの」
「とても素敵ですね。楽しみにしてます」
「シルビアは?決まったの?」
「はい。うまくできるかわからないので、少し多めに買おうかと」
「失敗しても、ルヴィーならそっちも欲しがるよ」
「そうでしょうか?」
同性とこんな風に一緒に買い物をするのは、今世で初めてだった。
前世では、学生時代は何度かあったけどもっぱらインドアだったから部屋に引きこもってばかりだった。
今ではすっかりアウトドアになってしまたけど。
「なんですって!」
不意に、そんな大きな声が聞こえて私もシルビアも振り返った。
振り返った先、ラルとその向かい側に見知らぬ女の子がいた。歳は私たちに近い、金髪ドリルヘヤーの子。
なんだろう、いかにも小説なんかに出てくる悪役令嬢っぽい見た目だな。
何かを言い争ってるみたいたけど、流石に傍観するのもどうかと思い、二人の方へと近づいた。
「ラル」
「っ!レーフ姉様、シルビア様」
声をかければ、二人が私たちの方をみる。
服装とそばにいる使用人を見るに彼女も貴族だろう。まぁ貴族御用達のお店だからそうか。
とりあえず、ラルの知り合いのようだから紹介をしてもらった。
「……こちらは、レミエルネ・ミミラーナ伯爵令嬢です」
「ミミラーナ……初めまして、レミエルネ嬢。私はトレーフル・グリーンライト。こちらは親友のシルビア・ガーデンハルク公爵令嬢です」
「お会いできて光栄です。まさかこんなところでお二人にお会いできるなんて。お茶会で、お二人のお姿をお見かけしたことがないもので、いつかご挨拶したいと思っていましたの」
彼女は、私とシルビアが唯一参加したお茶会に出席していなかった。
彼女がお茶会などのパーティーに参加するようになったのはその後からだった。
だから私とシルビアは彼女と会うのは初めて。だけど、噂は聞いていた。
あのお茶会で知り合い、仲良くなった令嬢と頻繁に手紙のやり取りをしているけど、彼女たちの全員の手紙に彼女の名前が書かれていた。
レミエルネ・ミミラーナ伯爵令嬢は私の婚約者であるハーヴェに言い寄ってる女性だった。
「そうだったのですね。私たちが参加したお茶会には参加されていなかったとのことですが、風邪でも引かれていたのですか?」
「えぇ、とても運悪く……あぁいえ、私にとってはその風邪は天命だったのかもしれません」
「天命、ですか?」
「えぇ。だって、私が参加したお茶会では、ハーヴェンク様がお一人で参加されていましたから」
うわぁ、頭ん中お花畑かこの子。
いや、確実に自分は物語のヒロインだと勘違いしてるタイプだな。聞いてたよりも結構ひどいなこれは。
あのお茶会に参加していた令嬢は、ハーヴェの私に対するアプローチや、シルビアとルヴィーの関係をしっかり見ていた。
あの二組の間を引き裂くなんておこがましい!なんて言われるほどに。
しかし、私たちが参加しなくなってからはそのお茶会に参加していなかった令嬢たちがここぞとばかりにハーヴェとルヴィーに近づいたそうだ。
何名かの令嬢が諌めようとしたらしいけど、効果はなかったそうだ。
「まぁそうですね。私とシルビアは王命で参加できないので、婚約者一人で参加しないといけませんから」
「王命……まぁ表向きはそうでしょうけど、実際は違うのでは?」
「……と、言いますと?」
「所詮政略結婚ですし、ハーヴェンク様もルーヴィフィルド殿下も男性ですから、女性と仲良くなりたいものでしょう」
うっわ。その歳でそんなこというのこの子。
どこでそんなこと覚えたのやら。親か?使用人か?
成人を迎えた令嬢ならともかく、まだ一桁の子供の口から出るような言葉じゃないぞ。
「口を慎んでください、レミエルネ様。伯爵令嬢が公爵令嬢になんて口の聞き方をしているのですか!」
「ふん。ずいぶん偉そうにされていますね。お一人でといえば、あなたの婚約者も王命で参加されていませんよね。まぁ貴女のような女性よりもアルヴィルス様にはもっと素敵な女性がいるでしょうけど」
「……ラルに八つ当たりをするのはやめてくれないかしら」




