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37話:義妹

「と、いうわけです」


稽古の後、身支度を整えて朝食の席へとついた。

その席には、私とカルシスト家全員が揃っていた。

朝食前、ラルエリナ嬢は両親とハーヴェにこっぴどく叱られたようで、目元がほんのり赤くなってる。まぁそりゃ泣くよなー。当たり前だとは思うけど、3対1はちょっとあれだよ。せめて私呼んで欲しかった。

朝食の談笑はたわいもないものだった。そんな中で、時々ラルエリナ嬢がチラチラ私を気にするように見てきたけど、やっぱりあれは気まずかったのかな。

朝食を済ませた後は、使用人を全員下げてお話し。いや、全員は言いすぎた。

一部、事情を知っている使用人だけは残ってる状態。

私は、へーリオス様に手助けしてもらいながら、昨夜のことを話した。色々前提のこともあったので、それはラルエリナ嬢に申し訳ないと思いながらも話をした。

そして、彼女に神獣の一匹であるグリシーナイーグルのロワヨテ様から加護を受けたこともお話しした。


「ラルエリナが加護を……」

「とても光栄なことだけど、ということは」

「私やアル、シルビア同様に、加護のことを秘密にしないといけないため、集まりには参加できないかと」


彼女は頻繁にお茶会に参加していた。だけど、これから参加できないとなれば彼女は後ろ指を指されることになるかもしない。

彼女の将来のためと思って加護を受け入れたけど、また私は自分勝手なことをしてしまったかもしれない。


「構いません」


だけど、当の本人であるラルエリナ嬢は構わないと口にした。

幼い子供にしては、大人びた、貴族令嬢らしい雰囲気を出す彼女は。昨日の夜の姿よりも、そして私に絡んできたときよりも、よっぽど大人っぽく見えた。


「もとより居心地が悪かったですから。それに、私はお兄様のように強くないので、婚約者がいながら一人でいるのは耐えられません」

「……ラル」

「そうか……お前がそれでいいなら私は何も言わない。すぐにでも国王陛下にお伝えする必要がある」

「……トレーフル様、一つお聞きしていいでしょうか?」


スッと、彼女の視線が私に向けられる。

ジッと私を見るその目は、本当に今までのものとは違う。たった一晩でこんなにも変わるものだろうか。


「何かな」

「どうして、私に加護を与える許可を出されたのですか?」


まぁそうだよね。理由聞くよね……

確かに、私の判断とはいえ、彼女は自分で望んでそれを与えられたわけじゃない。その上、それは生まれながらではなく、今目の前にいる私の判断で与えられたものだ。


「貴女やアルの将来に役に立つと思ったの」

「将来、ですか?」

「魔道具を作るにも素材がいる。アルも虫や植物に興味を持ってその研究をしている。研究をする上で色々なところを回るだろうから、二人のためになるかなって思った」


千里眼があれば、周囲の状況判断もできるから身を守ることもできるし、目的のものを見つけてすぐ帰ることもできる。

研究は時間をかけてじっくりやるものではあるが、場合によっては急がないといけないことがある。何度も何度も繰り返すには、材料が必要だ。その材料も、すぐに見つけないといけない。

浅はかな考えかもしれない。だけど、きっとその力は二人のためになると私は思った。だから、私は自分の判断でそれを受け入れた。


「それがあれば、もう森も迷わないでしょ」

「それは、一言余計です」


さっきの凜とした大人っぽい姿はなくなり、また年相応の表情に戻った。

表情がコロコロ変わるのはやっぱり子供だなと思う。でも、前のような敵視がなくなったのは嬉しいな。これでお姉様なんて呼ばれた日にはもう。


「あ、あの……昨晩や、今まで色々嫌な態度をとったのに、こんなお願いをするのはあれなんですが……」


もじもじキョロキョロするその姿は、何か言いたげだった。

なんだこの、体育館裏に呼び出しておきながらずっともじもじしている姿……

まさか告白!?

って、そんなわけないでしょ。私はまぁこれだけ可愛ければ女の子でもありなんですが、でも流石に兄の婚約者に告白とかないでしょ。うんうん。

一人で自問自答して納得する変なことをしながら、私はラルエリナ嬢の言葉を待った。


「もしよろしければ、レーフ姉様とお呼びしてもよろしいでしょうか!!」


告白ではなかったものの、とんでもない破壊力に私は手にしていたカップを落としてしまった。

ギュッと心臓が掴まれるような感覚に襲われて私は思わず胸を押さえて前かがみになる。同時に「可愛い!」という言葉が飛び出そうになるのを抑えるために口を押さえた。

事情を知らないものから見れば、いまの私はまるで毒をもられたようだった。

そのため、私の気持ちが落ち着くまでその部屋は大騒ぎになってしまった。


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