36話:剣王と未熟な魔剣士
日が昇りかけた時間帯。
私が仕掛けていた目覚ましもどきが作動して、目を覚ました。
ある意味昨夜は夜更かしをしたから眠いけど、それでもやっぱり早朝訓練には参加したいからすぐに支度をし、訓練場へと向かった。
「おはようございます!」
訓練場にはすでにへーリオス様の姿があり、素振りをしていらっしゃった。
やっぱり、いつ見てもいい筋肉をしていらっしゃる。
「おや、トレーフル嬢。起きられたのか?」
「はい。参加したかったので」
「うむ。良い心がけだ。ハーヴェも他の騎士も朝は苦手で誰もこなくてな。全く、見習って欲しいものだ」
「あはは……」
「では、目覚ましがわりにまずは1試合と行くか」
「よろしくお願いします!」
と、いう話だったが。結果として5試合ほどやったけど、結果としてぼろ負けだった。
さすが剣王様。剣術はもちろんだけど、魔法攻撃も全部防がれるか弾かれるか、壊されるかだ。
「よし、少し休憩するか」
「あ、はい」
訓練場の隅に腰掛けると、へーリオス様が準備されたサンドイッチを食べた。
早朝はメイドたちも忙しいから、自分で作られるとのことだ。分けてもらって申し訳ない。
小さな声で「いただきます」と言って大きな口を開けてがぶりといこうとした。
「してトレーフル嬢。昨夜は本当に、ラルエリナは貴女の部屋にいたのか?」
あがっ。という声を出しながら、口を開けて今まさに食べようとした瞬間の状態のままへーリオス様を見た。
鋭い目は、私の心をまるで見つめているようだった。
きっと、拷問にかけられている囚人はこんな気持ちなのだろうと思うほどに、とても怖い目だった。そんな目を前に嘘をつくことはできず、私は肯定してしまった。
「詳しく、聞かせてもらっても良いか」
私は、昨夜あったことを話した。
その中に、どうしてラルエリナ嬢がそんな行動をとったのか、どうして私が行き先を知っていたのか。どうやって行ったのか。などなど。
もちろん、ロワヨテ様がラルエリナに加護を与えたこと。私もアモル様に加護というか神眼をもらったこともお話しした。
「なるほど、そういうことだったか」
「すみません、黙っていて」
「いや、貴女はラルエリナを少しでも守ろうとした。それはちゃんとわかっている」
しかし、当然子供である私がやるには危険すぎる行動だったこともしっかり言われた。
確かに、一言言うべきだった。
力があるからと、私にできるからと一人で勝手に行動したのは良くないことだった。これは、今後のことにも関わってくることだ。
「後でシルヴァたちにも話そう。加護のことも伝えなければならんしな」
「お手数をおかけします」
「良い。にしても、トレーフル嬢は三匹の神獣様とお会いしたのだな。わしも随分長い時間を過ごしたが、まだ1匹しか会ったことがない」
「え、お会いしたことがあるんですか!?」
神獣は、あの世界から出ないものとばかり思っていたが……いや、アモル様が出ないだけで他の神獣は違うのだろう。
見ることも滅多にないとのことだったし。
「あぁ。まぁ会ったと言うよりは見かけた、と言うべきだな。もう随分と前、戦場でたまたま空を見上げた時にお姿を目にした」
空……鳥?と言うことは、ロワヨテ様だろうか。
そう思っていたが、へーリオス様がお見かけしたのは、まだ私がお会いしたことがない神獣様だった。
「陽の光に照らされた毛並みはとても美しかった。戦場だと言うのに、ついつい見惚れてしまった」
「その、神獣というのは……」
「空の旅人と言われておる、天狼」
「スカイ、ウルフ?」
ウルフって……え、狼が空を飛んでるの!?
狼の体に大きな羽ってこと?
そんな私の疑問をへーリオス様は答えてくださった。
翼はなくてそのまま体の大きな狼だそうだ。そして、地面のない空のはずなのに、空中を地面の上を走るようにかけているというのだ。
なにその神秘的な光景!
「人生で会えるかわからないものに会えたのだ。トレーフル嬢は運がいい」
「そんなことはありません。私は、一歩間違えれば死んでいたかもしれません」
初めてアモル様とお会いした時のことを思い出すと少しだけゾワっとした。
あの時、私が必死になって否定しなかったら、私もアルも殺されていた。
結果としては良かったが、別の可能性を考えると体に恐怖を感じてしまう。
少しだけ鼓動が早くなり、わずかに不安感を抱く。それを紛らわせるように、私は手にしていたサンドイッチを口の中に無理やり押し込み、良く噛んで飲み込んだ。
「よし、それでは。朝食の時間まで試合をするかな。実戦あるのみだ」
「あ、はい!よろしくお願いします」




