332話:氷の憤怒1(???視点)
昼間の穏やかな雪は、夜になると激しい吹雪に変わった。
それはまるで、今の彼女の……トレーフル・グリーンライトの心を表しているようだった。
一歩、一歩と雪を踏み締めながら、彼女は目的の場所へと向かっていく。
七魔獣王が一体、洞窟の王サヴァーイアの生態は長年知られていなかった。彼が属する記憶が、いつ消化するかわからない。だからトレーフルは、奴を倒すまで戻ることはできない。そして、時間をかけることもできない。
洞窟の中は、昼間以上に暗闇に包もれていた。
魔獣や魔物の呻き声も聞こえるが、彼女は気に留める様子もなく中を進んでいく。
探知魔法を使うが、洞窟内部の魔獣や魔物は真っ直ぐにトレーフルの元へ向かっている。
おそらく、サヴァーイアの指示だろう。奴は長年この洞窟に住みつき、そして他の魔獣や魔物と共存していた。
どんな生物でも、強いものが上に立ち、強いものの指示に従う。
だから、真っ直ぐにやつらはトレーフルに向かっている。
だけど、今の彼女の眼中には他の魔獣や魔物の姿はなかった。彼女は、サヴァーイア以外に興味はなかった。
「邪魔」
一歩、踏み出した瞬間に洞窟全体が凍りつき、洞窟内にいた魔獣と魔物は一気に氷漬けになる。
ただ一体、この洞窟の主であるサヴァーイアだけが氷漬けにならずに、巣があった場所でトレーフルを待ち構えていた。
頭上で羽ばたく奴は、どこか不敵に笑っていた。
「ずいぶん余裕そうだね。今から殺されるっていうのに」
「ギ……ギェエエエエエ!!」
おたげびをあげると同時に、サヴァーイアはトレーフルに向かって襲ってきた。
鋭く、刺さって仕舞えば致命傷になるであろう、毒がたっぷり塗られた大きな爪。
トレーフルは動かなかった。動かず、ただじっとサヴァーイアを見て、不敵な笑みを浮かべた。
「ギェ?」
後数センチでトレーフルに爪が届くところ、音もなくサヴァーイアの両足が切り落とされた。
何が起きたのか一瞬わからなかったが、サヴァーイアは肌に何かを感じ、そのまま勢いよく天井の暗闇に消えていった。
「どうして逃げるの?ほら、襲わないと。私1人だから、私が何もしないと食事もできないでしょ?あのときみたいに、食事をするために私を動かしてみてよ」
トレーフルから漂う魔力の量。それは、サヴァーイアが森中に漂わせているものと同じか、それ以上のものだった。
「そう……それじゃあ、こっちから攻撃するしかないか」
トレーフルは、ゆっくりと暗闇に向かって手を翳し、グッとてを握る。
すると、サヴァーイアが悲鳴をあげ、暗闇からぼとりと地面に落ちてきた。
「貴方、ずいぶん音に敏感みたいだったから。その敏感さは、未来氏じゃないかって錯覚するほどに早い。だから、貴方と昼間戦ってここにくるまでに新しく魔法を作ったの」
地面に落ち、地を這うサヴァーイアの翼に、音もなく現れた剣が突き刺さり、つんざくほどの悲鳴をあげる。
「名前は考えてなかったけどそうだな……《静かなる怒り(カルムグラージュ)》ってどうかな?」