33話:レインボーバラフライ3
流石に地面に座るのもあれかなと思い、辺りを見渡せばちょうどいい岩があった。その上に、たまたま持参していたハンカチを乗せてラルエリナを座らせた。
私はその場に立って一緒に眺めることにした。二人が座れるようなスペースもないし。
「綺麗だね」
「はい」
「捕まえないの?」
「レインボーバラフライは満月の夜に生まれて、満月が終わると死んでしまうんです」
「へぇー、1日も生きられないんだ」
「はい。だから、こうやって見ることしかできないんです」
「……アルとじゃなくて申し訳ないな」
「そういうのはいいです。将来一緒に見にくるので」
「……そっか」
ま、私たちは今こうやって大人しく見てるけど、アルはきっと大はしゃぎするだろうな。
写真見たいな魔道具とか魔法があれば、レインボーバタフライの姿を綺麗に残せるのにな……帰ったらちょっと調べてみようかな。
「ありがとうございます、トレーフル様」
「ん?」
「正直、ここには来れないと思ってました。それ以上に、道に迷ってしまったからもう家に帰れないと思ってました」
また、泣き出しそうに顔を歪めるラルエリナ。
きっと、気持ちが落ち着いてきたから、今まで抑えていたものが溢れた感じなのだろう。
子供ではあるけど、彼女もまたどこか大人びているところがあるから。
「家族に迷惑をかけるつもりはなかったんです。見たらすぐに帰ろうと思って、でも思っていたよりも暗くなるのが早くて」
「うん……」
「悪いことをしている自覚はありました。でも、期待してたんです。お兄様かアルヴィルス様が迎えにきてくださると」
「あはは、私でごめんね」
苦笑いを浮かべるけど、彼女は首を強く横にふり、今にもこぼれてしまいそうなほど、瞳に涙を溜めたまま私の方を見た。
「トレーフル様でも、嬉しかったです」
「……そっか」
「私、わたくし……トレーフル様が嫌いでした。アルヴィルス様は、私がいるのに貴女の話ばかり。お兄様も、私より、トレーフル様ばかり……」
ラルエリナが無能かと言われたらそうではない。
魔力もそれなりにあり、何より魔道具への関心が高い。
魔道具は、魔法がほとんど使えない平民にとっては生活を支える大きなものだ。彼女はきっと将来的に優れた人物になる。
ただ、彼女は褒められたい、愛されたいと思っていた相手が自分よりも褒めていたことにやきもちを焼いただけだった。
見られていないわけじゃない。ただ、彼女が自分を褒めてくれている現場よりも、他人が褒められている現場をよく目にしていたからだった。
「ラルエリナ嬢。貴女に話しておくことがあります」
彼女は確かにまだ幼い。でも、アルと同い年で子供にしては大人びている。何もわからない子供じゃない。
「今からお話しすることは、両親が、ハーヴェが、アルが貴女を守ろうとして黙っていたことです」
私は、彼女に話をした。どうして私やアル、シルビアがお茶会に参加できないのか。そして、どうしてそれを黙っていたのか。
彼女はルヴィーやハーヴェがお茶会で婚約者がいなくても平気だと思ってるみたいだけど、そんなことはない。あの二人は私やシルビアをすごく想っている。だからこそ、その寂しさを埋めるために頻繁に会いにきていた。
だけどラルエリナはそうしなかった。だから、周りの言葉に苦しんでいた。
「ラルエリナ嬢。わがまま言っていいんですよ。私の話をしてほしくなかったらそういえばいい。自分を優先して欲しいと想ったらそういえばいい。私も貴女も子供なんです。わがままぐらい言っていいんですよ」
「……でも、そんなことをして嫌われてしまったら……」
「その時は私に任せて。二人とも、私には弱いし。大事な義妹を傷つける子は許せない」
「……トレーフル様は、私のことをどう想っているのですか?」
「ん?愚問だね」
「ぐもん?」
「あぁごめんね。えっと、いうまでもないでしょって意味。私はラルエリナ嬢のこと大好きだよ」
「どうしてですか?だって、私はたくさん意地悪をしたのに。シルビア様のことも悪く言いました」
それについてはお怒りです。
でも、彼女がしたことの理由は私もわかっていたから。怒るよりも可愛いなぁとしか想ってなかった。まぁ今回のことはちょっとショックだったけど。
「ラルエリナ嬢はアルと婚約した瞬間から、私の可愛い妹になりました。なので、何かあれば姉である私を頼ってください」
「……ごめん、なさい……」
ギュッと強く唇をつぐみ、そして溜まりに溜まった涙を流しながら、ラルエリナは私に何度も謝罪してきた。
私はその謝罪を受け入れ、彼女を優しく抱き寄せた。




