313話:お疲れ様でした会
長い長い研究の日々が終わった。とは言っても、たった2週間ではあったけど、濃密な時間がったのは確かだ。
多くの研究員に苦労を与えた、魔法の書籍化の時間。
あぁでもないこうでもないと頭を悩ませた魔法薬の時間。
学園にいた頃よりも忙しく、そして楽しい時間だった。
「ではこれより、われらが魔塔にやってきたものたちとの晩餐会を行う!」
多くの研究員たちの前で、高らかに宣言するメルクーア様。
今日、最終日の夜は、私たちが研究に没頭している間に計画されていた晩餐会。いわゆる、お疲れ様でした会が開催されていた。
たくさんの料理が並べられ、今この瞬間だけ研究のことは考えないで楽しむようにとメルクーア様たってのことだった。
「いやー2人とも。楽しんでるか」
「はい」
「料理が美味しいです」
「ん?それが噂の主神の子か」
主役である私たち2人は、さっきまで研究者たちに囲まれてこれまでのことを泣きながら話されていた。いや、ほんと申し訳ない。
彼らがいなくなってから、アニーやヘルガたち。数名の研究員が作った食事をもぐもぐと一緒に食べていた。
そんな時に声をかけてきたのがメルクーア様。そばには、ナーヴィス先生とルークスさんの姿もあった。
「そういえば、お会いするのは初めてでしたね」
「あぁ。お前が主神様と契約してるのは知っていたが、まさか子供とも契約してるとはな」
「……リラトオンナジニオイ」
「俺もドラゴンなんだ。とはいえ、お前みたいな純粋な。ではないけれど」
「フーン」
リラはまだあまり知識がない。同族や、同じドラゴンだけどそうじゃないというのもあまりピンときていないのだろう。今はただ感情のままに、好き嫌い。楽しい楽しくないを判断しているようなものだ。
「お前たち、冬休みはどうするんだ?暇なら魔塔に来ないか?」
「予定はないですが、考えておきます。実家に帰るかもしれないですし、急な用事ができるかもしれないですし」
「お。俺は!メルクーア様が良いと言われるのであれば、伺いたいです!」
「そうかそうか。お前たちは魔塔主権限で好きに出入りしていいからな。あ、そうだ。入塔許可書を与えよう。手の甲を出せ」
言われるままに、私とミセリアはメルクーア様の前に手の甲を出す。
すると、その上にメルクーア様の手が載せられる。
空気が変わり、魔力が巡るのがわかる。そして、手の甲に何かのマークが浮かび上がり、そのまま私たちの手の甲の中に入って行った。
「よし、これでお前らは好きに出入りできる。来る時はナーヴィスか、専用の入り口から来るといい」
「今のが許可書ですか?」
「あぁ。普通に紙とかだったら、悪用されるだろ?こういう魔法を使ったものなら、悪用されることはないしな。ちなみにこれも、俺が考えた魔法だ。すごいだろう」
誇らしげにするメルクーア様に、私とミセリアは歓声を上げながら拍手をする。それをされたメルクーア様は上機嫌。ナーヴィス先生は頭を抱えていた。
「そういえばトレーフル。お前、ニルヴァルドと面識があるそうだな」
「え?メルクーア様、ヴァルと知り合いなんですか?」
「愛称で呼ばせるなんて……相当気に入ってるようだなあれは。まぁ俺も長生きしてるから何度か顔を合わせている。なにをかんがえているかよくわからんやつだ」
まぁそうだよな。龍族である彼も長寿だし、一度ぐらいは会ったことあるだろう。ということは、もしかしてエルフであるルークスさんも顔見知りだろうか。
そう思い、視線を彼に向ければ、気付いた彼は笑顔を浮かべて頷いた。私の意図を読んでくれたようだ。
「ニルヴァルドといい、リーベのばあさんといい。面倒なやつばっかり長生きしてるな」
……今、すごいこと言った?リーベってアラクランの永遠の王妃である、7魔女のあのリーベ様だよね。
あの人を婆さん呼びするなんて、メルクーア様って一体どんな立場なんだろう。
「他の方もきっと、魔塔主様に対して同じように思ってますよ」
「なんだと!俺のどこが面倒なんだ」
「そういうところです」
「どういうところだ」
目の前で繰り広げられる上司と部下の言い争い。
とはいえ、こんな傲慢な態度をとってはいるが、メルクーア様は優秀な魔塔主。性格に難があっても、そこは彼のカリスマ性でカバーできているのだろう。
「リラ、美味しい?」
「ウン!」
こうして、お疲れ様でした会は無事に終了した。ただ、私が差し入れで渡したワインを飲みすぎた研究員は結構グロッキーだったけど、あえて見ないふりをした。