31話:レインボーバラフライ1
その後は大慌て。
食事をすることなく、全員で屋敷中を探し回っていた。
一応客人ではあったけど、私やアニー、ジルクもラルエリナを探した。
だけど、どこにもいなかった。
ラルエリナの部屋は、窓が明け放れて、柵にシーツがくくりつけられて外に放り出されていた。
誰がどう見ても、彼女が部屋を抜け出したのは明らかだった。
辺りは真っ暗で、空には美しい満月が浮かんでいる。小さな子供がいるにはあまりにも危ない時間帯だ。
すぐに騎士団が集められ、周辺の捜索が開始された。
私は、子供はもう寝る時間だからと部屋にいるように言われた。でもまぁ、素直に従うわけもないけど。
「アモル様、聞こえますか?」
誰もいない部屋の中。ベットの上に横になりながら、私は友人である神獣のアモル様に声をかけた。
『何用だ』
「突然すみません。あの、お聞きしたいことがあります。場所を指定すれば、そこに道を繋いでもらうことは可能でしょうか?」
『あぁ。一度こちら側に来てもらう必要があるが、可能だ』
「では、ミナコの森に繋いで欲しいのです」
『……一応、理由を聞いても良いか、トレーフル。そちらはすでに夜であろう。子供が出かけては不審がられるであろう』
「……実は」
私は、ラルエリナが屋敷にいないこと。そして、彼女がどうして屋敷を抜け出したのか。
今日は満月。ミナコの森の奥にレインボーバタフライが姿を現す日だった。
彼女はきっと、それを捕まえに行っているのだろう。
『なぜそのようなことを?』
「多分、私が原因だと思います」
『トレーフルが?』
「はい……」
あの子が、そんな危険なことをしてでもあそこに行こうとした理由。
その原因が自分であることは、彼女がいなくなったと聞いたときにすぐにわかった。
「私がいなくなっても大丈夫です。魔法で誤魔化しますので」
『わかった。すぐに道を開こう。少し待っておれ』
「はい」
アモル様が準備をしてくださっている間に、私は幻影魔法でベットの上で眠る自分の姿を作った。
喋ったり、動かしたりするのは難しいけど、こうやって眠ってるだけの姿なら、今の私でも作ることが可能だ。
幻影にそっと毛布をかぶせたと同時に、私の後ろに道が開いた。
前と同じように、私は光の中へと消えて行く。私が中に入れば、部屋の中は何事もなかったかのように、静寂に包まれた。
光の先は、神獣様たちが生活をしている世界。
そして、足を踏み入れたのはあの時と同じ、アモル様がいらっしゃる水辺だった。
「来たか、トレーフル」
「わがままを聞いてくださり、ありがとうございます」
「良い。我と主の仲だ、気にするでない」
「あ、この子がアモルが話してた子?」
不意に、見知らぬ声が聞こえてあ辺りをキョロキョロしていると、「こっちだよ」という声と同時に大きな影が落ちた。空を見上げれば、大きな鳥が私のそばに降り立った。
「初めまして人間さん。俺はロワヨテ。人間たちからはグリシーナイーグルって言われてて、忠誠の象徴にされてるんだ。よろしく」
「は、初めまして。トレーフルです」
「うんうん、礼儀正しい子だね。いやーウェールスがアモルが人間と契約したなんていうからなんの冗談かと思ったけど、まさか本当だったとわね」
アモル様の方を見ながら、彼、ロワヨテ様がにっこりと笑みを浮かべる。明らかにからかわれているのがわかっているのか、アモル様は知らんぷりをしている。
「っと、そういえばどこかに行くんだよね。邪魔して悪いね。帰りもここを通るだろうし、その時また話をしようよ。人間と話せるのは滅多にないし」
「わ、私でよければ」
「トレーフル、道は繋いだ。森についたら精霊を頼ると良い。奴らは我ら神獣の良き隣人だ。我と契約しておる主からは我の匂いがするため、仲良くしてくれるだろう」
「初めて聞きました」
「ん?言ってなかったか」
「アモルって、実は結構抜けてるんだよ」
耳元で、小さな声でロワヨテ様がおっしゃっていたが、アモル様にも聞こえていたようでムッとした表情を浮かべていた。
これ以上話がややこしくなるのもアレだし、私は二人に挨拶をして道を通り、ミナコの森に足を踏み入れた。




