3話:名も無き作品の世界
私が書き始めた本編は、今から約10年後。魔法剣士学園に入学する少し前がスタートだった。
ヒロインは貴族ではなく平民。だけど、神の加護を受けた特別な存在だと発覚し、学園に通えるようになる。
その暮らしの中で、王子と仲良くなり、二人は結ばれハッピーエンド。
トレーフルは、物語の主人公である王子の従妹。つまり王族。
しかし、現王の弟であるトレーフルの父は、兄が王になったその時に公爵となった。王族の血は引いているが、身分は公爵ということ。そして、子供達に王位継承権はない。弟のアルヴィルスは公爵家の跡取りに。私、トレーフルは、王子の専属護衛騎士と結婚することになっているが、魔法の暴走により死んでしまう。物語の立場上では悪役なのだが、そこはまたおいおい。
そんな本編よりも10年も前なのが今この瞬間。まだ私も、王子も、婚約者がいない。
「姉さま、退屈じゃないですか?」
「うん。でも、大人しくしてるように言われたから」
今回の私の怪我の原因は本編にも関わってくるものだった。
私は魔力の量がかなり多く、魔法属性も多くのものを使いこなせた。しかし、それらをコントロールする力が備わってなかった。
それにより、見た目に反して強力な魔法が発動し、同時にコントロールができないため暴走。結果、一週間眠るほどの大怪我をおった。
本編では、今回のことがトラウマになり、トレーフルは魔法を一切使用しない。それが原因で、本編ではあんなことになってしまったが。本当なら、彼女を死なせず、魔法をうまく使いこなして国のために頑張る子にしたかった……でも、それは担当のせいで叶わなかった。
「お勉強と剣術は頑張ってる?」
「はい!元気になったら、姉さまにもお見せします!」
「楽しみにしてるね」
名も無き私の作品。書き上げることなく死んでしまったけどどうなったんだろう。流石に、作者が死んだから世には出ていないと思うけど。まぁそれでよかった。元々書きたい作品ではなかった。作者が愛せない作品を読者が愛してくれるかはわからない。
大衆ウケの王道作品。でももし、私が書きたかった内容だったら、読者はどう思っただろうか。
キャラ全員のハッピーエンドが私の望み。きっと駄作と言われ、色々低評価コメントが来るのかもね。
「……あ、そうだ。そうだよ、うん」
「ん?姉さまどうかしましたか?」
そうだ。ここは確かに私が書いていた作品。だけど、全員に意思がある。私の行動、誰かの行動で本編とは違う内容になる。つまり、私が望むハッピーエンドになるかもしれない!
「運命は書きかえられる……」
「よくわからないですが。僕にできることがあれば言ってください」
「ありがとう。とりあえず、アルはそろそろ稽古の時間でしょ?行っておいで」
可愛い弟の頭を優しく撫でてあげ、悲しげな背中で出て行く彼を見送った。
その後、メイドに紙とペンを用意してもらい。私はそこに重要人物を書いていく。
「特に彼女。この子を一番幸せにしたい」
紙に書かれた名前。私は彼女の名前に印をつける。
シルビア・ガーデンハルク。
ガーデンハルク家の令嬢で、王子の婚約者となる人物。つまり、物語の悪役ポジション。
私はこの子を必死に守っていた。彼女が悪役となった理由は、婚約者がいながら仲良くなる二人の間を裂いたため。でも、仕方がないことだ。彼女は幼い頃から次期王太妃として教育を受けてきた。なのに、婚約者がいるのに、主人公と話すヒロイン。ヒロインと話す主人公。
彼女がどんな想いかわかるか!
とまぁそんな感じで。私はこの子を幸せにしてあげたい!
「まずはお友達から!今の所、接点がないからお父様に頼めばいっか」
それに彼女は私、トレーフルと同じで高い魔力を持っている。とは言っても、私とあの子ではちょっと存在というかジャンルが違うのだけどね。
ちなみに本編では、成績の上位争いはいつもこの二人だった。それも、二人が悪役ポジションの理由の一つでもある。
「さて、次は……」
その時、不意に扉がノックされ、メイド長がやってきた。
なんでも、私にお客さんが来ているらしい。おかしいな、記憶に今日会う約束をした相手はいない。
とりあえず案内するようにいえば、二人の幼い男の子が部屋にやって来た。
私は物書きで、絵はてんで駄目だった。だけど、キャラたちの姿はいつも頭の中でイメージしていた。だから、幼くてもすぐにわかった。
「なんだ、思ったより元気そうじゃないか」
「やぁ、当然すまないね」
主人公と護衛騎士だ。