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24話:訓練2

試合は10本勝負で、1本でも私が取ればいい簡単なことだった。

そう、簡単なことのはずだった……


「うっ……」

「はい、これで僕の9連勝」


地面に膝をつく私の首元に、剣の先を突きつけながらにっこりと笑みを浮かべて見下ろすハーヴェ。

簡単だと思ってた。2、3本は取れると思ってた。なのに全く歯が立たない。


「ふふっ。後1本でレーフにキスしてもらえるなんて嬉しいなぁ」


もう勝ってる気でいるハーヴェが憎たらしい。

同時に、込み上がる感情に涙が出そうになる。

別にキスが嫌ってわけじゃない。でも、同世代に負けるのは嫌だ。

立ち上がり、あがる息を整えながら考える。どうすれば勝てるのか、どんなことをすれば勝てるのか。魔法を使えば勝てるだろうけど、私は魔法なしで勝ちたい。じゃあ、未熟な私が、すごい人を師にしてるハーヴェに勝つためにはどうすればいいのか。

何かないか。この際こっちの知識じゃなくてもいい。あっちの、前世の記憶。

元は完全インドアで、本ばかり読んでた。アニメだって視ていたんだ。その中に、私にできそうなものはないだろうか……。


「それじゃあ最後の試合だよ」

「……大丈夫、大丈夫……」


誰も合図は出さな。どちらかが動き出せば試合が始まる。

私とハーヴェの違い……何か、何か……。


「試合中に考え事なんて余裕だね」

「そうでもない、かなっ!」


剣を構え、そのままハーヴェに突っ込む。

正直今の私じゃハーヴェに勝てない。だから、小細工をする。そうでもしないと私はハーヴェに勝てない。

強くなるために、どうしてもへーリオス様に剣を教わりたい。だからごめんハーヴェ。ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね。


「おお振りだよ」


私が剣を振り上げる状態になれば、ハーヴェはそう口にする。

わかってる。でも、これでいいの……距離は十分足りる。

少し振り下ろしたタイミングで私は剣から手を離した。その行為にハーヴェが驚き、視線は手から離れた剣に注がれる。そうなればこちらのもの。

体を低くして、そのままハーヴェの首に手を伸ばし、彼を押し倒す。

そして、手から離れた剣を握り直して、彼の顔の横に剣を突き刺した。

はぁはぁ、と息が上がる。達成感というか、頭の中でイメージしたことがうまくいったことへの感動がすごい。私、結構できるんだ。

高ぶる感情に、自然と笑みがこぼれ、そのままハーヴェに視線を向ける。


「私の勝ち」

「っ………」

「ジルク!今の見た!ねぇ見た!」


私はすぐにハーヴェから降りてジルクの元に行く。

褒めてはくれたけど、危険な行為だったため怒られた。それは私もわかってたけど、あぁでもしないとハーヴェに勝てなかったもん。


「してやれらたよ。僕が頭脳戦で負けるなんて」

「それって、私が何も考えないでただ剣を振り回してるだけって言いたいの?」

「そんなことないよ。でも、あれは勝ちっていうのかな?」

「勝ちだよ!ね、ジルク」


必死になってジルクにいえば、苦笑いをされた。

勝ちは勝ちだもん。いや、純粋な剣術勝負じゃないから引き分けかな……。

仕方ない。見た目は子供でも中身は大人な私が、折れてあげようじゃないか。


「仕方ない。じゃあ、これでお互い様ということで」


私はハーヴェに近づき、彼の頬に口づけをした。

口にキスは10勝したらって約束だったし、実際最後は私が勝ったからこれでおあいこ。


「あーあ、へーリオス様に教われると思ったのになぁ」

「すみません役不足で」

「大丈夫。ジルクはいい騎士だよ。ね、アニー」

「はい。トレーフル様のいう通りです」

「っ!これからも精一杯頑張ります!」

「ん?ハーヴェどうしたの?」


全く動こうとしないハーヴェに声をかければ、しばらく俯いてはいたけど、すぐに笑みを浮かべて「なんでもない」と言っていた。




この時、実は彼が私のキスに動揺して顔を真っ赤にしていたなんてことは気づかなかった。だって、顔をあげた時の表情は本当にいつも通りだったからだ。


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