2話:前世の記憶
それが、私の前世だった。
随分と惨たらしい死を迎えた私は、今、新しい人生を生きていた。
「お嬢様!!」
「目を覚まされたのですね!」
「すぐに医者を呼べ!」
トレーフル・グリーンライト。それが私のいまの名前だった。
そして私はこの名前をよく知っている。
「よかった……本当に良かった……」
ベットの側、泣きながら私の手を握る幼い男の子。今世の私の弟である。
薄い緑色の髪に青い瞳。私がイメージしていたよりも、うんと可愛らしい顔立ちをしている。
「泣かないでアル。もう大丈夫だから」
「でも、一週間も目を覚まさなかったんですよ!」
一週間……それだけの大怪我であれば、前世の記憶を思い出してもおかしくない……のかな?
私は自分の顔に傷がないか見たいと言い、メイドに手鏡を持ってきてもらった。
そこに映っていたのは、側にいるアルこと、アルヴィルスよりも少しだけ濃い緑髪に、青色の瞳の幼い少女。パッと見、5か6歳くらいだろうか。
「やっぱり……」
「姉さま?」
間違いない。ここは、私が前世で書きかけていた小説の世界だ。タイトルはつけていなかったけど、私が苦しくて心のどこかで書きたくないと思っていた世界だ。
(まさか、この世界に生まれ変わるだなんて)
なんの運命なのか、それとも何か理由があってここに来たのかわからない。
トレーフルとしての記憶は残っている。でも、それでも情報が少ない。もっともっと調べないといけない。
しばらくして、医師がやってきて私の状態を調べてくれた。問題はないが、様子見のためにしばらくは安静とのことだった。
「大人しくしているんだぞ」
「えぇ、特に魔法の使用は禁止よ」
「はい。お父様、お母様」
私がベッドの上で目覚めた理由。それは、魔法だった。