188話:解散後
「トレーフルちゃーん」
会場を出ようとしたときに、クロイツ様が私に声をかけてきた。
私は笑みを浮かべるが、それは彼にではない。
「エリオット先輩。選抜メンバーおめでとうございます」
「ありがとうございます。トレーフル様や殿下たちはやはりという感じですね」
「そんなことはありません。先輩のご活躍、期待しております」
「ちょっとちょっと、俺のことは無視―?」
休み前と変わらない距離感でクロイツ様が声をかけてくるが、私は彼をいないものとして変わらずエリオットと会話をする。
視界の端、一瞬ナターシャ先輩と目があったが、彼女はどこか気まずそうにしながらそそくさと会場を後にした。別にそんな怯えなくても、あの時のことは特に気にしていないのにな。
「それではエリオット様、私は失礼します」
「あ、ちょっと待ってよ!」
私がエリオット様に挨拶をしてその場を去ろうとしたときに、彼が私に向かって手を伸ばしてくる。
だけどそれを、ハーヴェンクが払いのけ、シルビアが私を抱き寄せて、ミセリアが震えながらも大きく腕を広げて私たちを守るように一歩前に出て、さらに私たち3人を守るようにルヴィーが一歩前に出た。
「お前……」
特に口にすることもなく、4人はクロイツ様を睨みつけた後、私を連れて会場を後にした。
「なんなんだあいつは!/何あんですかあの人は!」
しばらくは無言が続いたが、我慢できなかったのか、シルビアとルヴィーがほぼ同時にそう口にした。
二人には事情は話していたが、シルビアはともかく、ルヴィーはあぁやって絡んでくる様子は初めて目撃していた。
「気安くトレーフル様に触れようだなんて……しかもちゃん付け!?本当に1国の王子なんですか」
「いいかハーヴェク、あいつと当たったらボコボコにしてやれ。誰のものに手を出したのかわからせてやれ」
息を荒げる二人に、私もハーヴェも思わず笑ってしまった。
この二人にこんなに想われて、私は本当に幸せだ。
私は二人まとめて抱きしめて感謝の言葉を口にした。
「まぁ騎士科はハーヴェに任せるとして、選ばれた以上魔法科内では私たちはライバル同士。負けないからね」
「もちろんだ」
「はい!私も負けません!」
「ぼ、僕も負けないよ!」
こうして剣舞祭編へと物語は進んだ。