184話:夏の終わり
「トレーフル様、お休みはいかがでしたか?」
長いようで短い夏休みもいよいよ終わりを迎えようとしていた。
今日は実家に帰っていたダグネスク姉弟が別荘へとやってきた。
明日、二人と一緒に学園に戻ることになり、今日1日はここで過ごすことになった。
今は、エリオットがハーヴェに剣の稽古をつけてもらっており、私とアニーはそれを眺めていた。
「んー、有意義だったよ。新作もできたし」
「まぁそれはとても楽しみです。帰ったら、両親がすっかりトレーフル様のファンになってまして、サインをもらって欲しいと」
「あはは、そのぐらいなら大丈夫だよ」
学園に戻れば、すぐに剣舞祭の出場者が発表される。
全4学年あるので、各部門の最大出場者は20人。合計40人が剣舞祭で競い合う形になる。
エリオットもハーヴェもきっと出場することになるだろう。あの王子は、出るような口ぶりだったけど正直信用していない。
まぁ、出ようが出まいが、優勝するのはハーヴェなんだけどね。
「アニーはやっぱり、エリオットを応援する?」
「そうですね。魔法の方はもちろんトレーフル様ですが、騎士科は弟ですかね」
「あー、それは残念。アニーは僕の応援してくれないのか」
稽古がひと段落し、休憩でこちらにきたハーヴェが苦笑いを浮かべながらそう言っていた。
アニーは「そ、そんなつもりは!」と慌てるが、困らせるためにわざと言ってるから気にしないように言ってあげた。
「トレーフルは、もちろん僕だよね」
「もちろん。ハーヴェこそ、魔法科の応援はもちろん私だよね」
「んー、そう言いたいけど……一応僕は、将来的に殿下の専属騎士になるからなぁ」
と、私にまで困らせるような発言をした。
ほぉ、私にそんなこと言うなんて、後悔しても知らないからね。
「そっか……じゃあ私はエリオットの応援するよ」
「え!?俺ですか!?」
「うん。ハーヴェは私じゃなくてルヴィーの応援をするそうだから」
私がニマニマしてハーヴェを見れば、彼もやっぱり私が本気ではないことは理解したようで、素直に「ごめん」と謝ってきて、私を応援すると言ってくれた。なので、私も謝罪をして、改めてハーヴェを応援すると伝えた。
エリオットには、まるでバカップルの惚気の道具みたいな扱いをして本当に申し訳ない。お詫びに今度、付与魔法をかけた装飾品を渡すことにした。
「トレーフル様。ぜひ、お手合わせお願いしていいですか?」
「ん?別にいいよ。ハーヴェ、木剣貸して」
「怪我しないでね」
木剣を受け取り、エリオットとの試合は3回行った。
騎士科所属で、3年間学んでいたということで、腕前は当然ある。
しっかり真面目に取り組んでいたのが剣を交えるたびに伝わってくる。
ただ、あくまでも真面目な剣。そして、精々野生の動物や簡単な魔物を狩っただけなのだろうと感じてしまう。そう思うのは、私自身が多くの死んでもおかしくない状況を経験していたからだろう。
心の奥底で「ふざけるな」と感じてしまう。
その感情が表に出たのか、私の気迫に一瞬エリオットが怯んだ。その隙に、私は剣を弾き飛ばす。
残りの試合も同じ感じ。結果、エリオットは私に1試合も勝つことはできなかった。
「お疲れトレーフル」
「うん。ごめん、折れちゃった」
最後の試合、少し力を入れたせいで木剣が折れてしまった。
消耗品とはいえ、備品を壊してしまったのは申し訳ない。
「トレーフル様。お手合わせ、ありがとうございます」
「いえ。こちらこそありがとうございます。久しぶりに身内以外の方と稽古ができて楽しかったです」
「本当に、トレーフル様は騎士科にいてもおかしくないほど腕前。魔法科にいるのは勿体無い」
「評価してもらって嬉しいです」
とはいえ、これでもハーヴェやルヴィーには勝てないんだよな。
本当に悔しい。
自分が剣舞祭で魔法科の1位になれるかはわからないけど、もし優勝してエキシビジョンでハーヴェと戦った時、純粋な剣術勝負を挑んでもハーヴェに勝つことはできない。やっぱり、魔法が使えないと彼に勝てないと言う事実がどうしても悔しく感じてしまう。
「トレーフル?」
「なんでもなーいよ。はぁ、動いたからお腹すいた」
「では、すぐに食事の準備をいたします」